2016-08-30

細菌の運動機構を阻害し、感染をくい止める

   細菌をよく観察してみると、体からべん毛と呼ばれる長い毛のようなものがのびているのが分かります。べん毛は、細菌の推進力を発生させる重要な機能で、科学者はこれを「運動性」と呼んでいます。細菌はこのべん毛をプロペラのように回転させ、環境中を泳ぎまわることができます。べん毛の数は個々の細菌によって異なり、「運動性」と「感染」との間には明らかな相互関係が存在することからも、べん毛の研究は重要です。沖縄科学技術大学院大学の細胞膜通過輸送研究ユニットの松波秀行博士らは、細菌感染を誘発しうるべん毛の形成について詳しく調査し、その結果を Scientific Reports 誌で発表しました。

   同ユニットを主宰し、論文共著者の一人であるファデル・サマテ准教授は、「細菌感染症には、まず抗生物質が用いられます」と述べ、「これを使って細菌を殺すのが目的ですが、抗生物質は人体の無害な細菌にも作用し、副作用が生じます。そこで、どうやったらすべての細菌を殺さずに感染を阻止することができるかを考えました。その方法の一つは、細菌の運動性、つまりべん毛の運動機能を抑制することです」とさらに詳しく説明します。

   その方法の1つは、べん毛の形成を抑えることです。様々なタンパク質が働き、べん毛は体毛のように細菌の外に向かって成長していきます。細菌には、べん毛の回転機構に関わるタンパク質や、べん毛の成長を促すタンパク質、または細菌の周りを覆う膜を通過し、べん毛を細菌の外に押し出す役割を担うタンパク質など、様々な種類のものが存在します。細菌からのびて見えるべん毛部分を構成しているタンパク質は全て細菌内で合成されたあと、細胞膜を通り抜けるべん毛内のチャネルから分泌されます。このときべん毛は基部からではなく、先端部から先に成長していきます。

   「私たちはべん毛の形成初期において重要な役割を担うタンパク質を調べました。このタンパク質は、べん毛が細菌の外で成長するのを助けます」と、サマテ准教授は説明します。「研究の結果、このタンパク質は2つの形態をもっていることが明らかになりました。両形態とも基本的な化学構造は同じですが、その幾何学的配置は異なります。タンパク質が「手狭な」幾何学的構造に押し込められると、べん毛は細胞外へと成長することができなくなります。これは、細胞外へべん毛を押し出す出口へのチャネルが形成されないためです。べん毛は細胞内に閉じ込められたまま成長が止まります」。

   現段階では、タンパク質の構成遺伝子を細菌外で人工的に組み換えたあと、それをふたたび細菌内に戻すという作業を要しますが、将来的には、別の方法で 組み換えをおこなうことが可能になると考えられています。例えば、タンパク質の幾何学的構造を組み換えることができる分子を錠剤に入れて体内に取り込むことで、細菌の動きを効率よく抑制する方法などが挙げられます。

   また、べん毛を構成する複数のタンパク質は、異なる細菌で類似しているものの、完全に同一というわけではありません。べん毛の大部分の構造は 保存されてきましたが、異なる細菌でははいくぶんの違いが見られます。これらの違いは、ある特定の細菌だけを対象とすることが可能であることを意味しており、細菌による感染症を防ぐ抗生物質にとってかわることが期待されます。

(フォンタナ・ミケレ)

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