2016-06-16

量子技術の勢いを加速する「1+1=2」の珍現象

 量子力学の分野では、物理学者が光子や電子など微小な単一粒子や、少数粒子の集まりについて研究しています。これらの粒子は波動として振る舞うときがあり、その特殊な性質を利用して粒子を操作したり制御することが可能です。量子力学では、粒子が壁を通り抜けるといった非日常的な現象が起こります。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームは、2つの粒子を確実に壁の向こう側に移動させる技術が可能であることを理論的に説明し、本研究成果をこのほど論文誌Physical Review Aで発表しました。

 「一個の原子や分子、電子などを高い確率で操作できるようになったのは、ほんのつい最近のことです」と論文著者でOIST量子システム研究ユニットを主宰するトーマス・ブッシュ准教授は言います。「そして我々は今、これを2つの粒子でおこなおうとしているのです。些細なことのように思えるかもしれませんが、実際はかなり複雑です」。

 光や磁場で形成したトラップに粒子を閉じ込めて粒子の波動性を利用する確立された研究手法があり、OISTの研究チームはこれに注目しました。あるトラップから別のトラップへと粒子を移動させるには、トラップ同士を近づけて、その間の壁を薄くします。するとトンネル効果と呼ばれる現象が生じて、粒子が壁を通り抜けて向こう側のトラップに移動することができます。ただし、粒子は壁を一気に通り抜けるのではなく、波動として壁の中を進むので、向こう側に粒子を完全に移動させるのは至難の業です。そこで粒子が閉じ込められているトラップの右側にトラップを2つ追加し、右端と左端のトラップを真ん中のトラップに近づけることで、一個の粒子が高い確率で一番右側のトラップまで移動できるようになるという方法が開発されました。

トンネル効果を再現

不確実性を考慮した方法(まずは右側のトラップを中央に近づけ、次に左側のトラップを近づける)を適用すれば、左端のトラップの中に閉じ込められていた粒子が、100%の確率で右端のトラップに移動する。原子の量子的性質に起因するこのプロセスは「空間的断熱通過」と呼ばれている。

 この手法は粒子が一個の場合には上手く作用しますが、粒子が2つになると難易度が劇的に高まります。これは2つの粒子が相互に作用しながらお互いに打ち消しあおうとするためです。

 「粒子の数が増えるほど操作は難しくなります。1+1の答えは2ではなく、相互作用も考慮して制御をおこなう必要があります」とブッシュ准教授は説明します。

 OISTの研究チームはこのような複雑な条件下でも、トラップ内の2つの粒子が相互作用領域が大きい場合は、単一粒子のときと同じ手法で2つの粒子を同時に別のトラップに移動できる方法を発見しました。

 「直感に反する手法が複数の粒子の操作に有効であることが分かったのはじつに驚きです」と、論文の筆頭著者でOIST研究員のアルベー・ベンセーン博士は言います。「粒子同士は互いに反発しあうので一カ所に集まることはないと考えられていましたが、私たちが使用した手法では、2つの粒子がトラップ間を同時に移動できることが理論的に示されました。これは2個の粒子が、ある条件ではまるで単一の分子であるかのように振る舞い始めるからです。そしてここから先はきっかり1+1=2となります」。

 重要なのは、この現象を確実に再現させる相互作用領域を見つけ出すことです。量子技術の進展にはロバスト性(外乱等の不確実性を想定した頑強な設計)が欠かせません。

 「量子コンピューティングの実現には99.99%の確実性が必要と言われます。我々の手法は、100%の確率で粒子を操作することができます」とブッシュ准教授は空間的断熱通過について語ります。

 現在、研究チームは今回の研究で見出した手法をより確実なものにすべく取り組んでいます。この技術を利用して特殊な量子状態を作り出し、より多くの粒子を操作することができる方法を模索しています。

 ブッシュ准教授は「複数の粒子の量子状態の研究は新しい物理分野の開拓の第一歩です」と説明し、「この技術によって、望みどおりの動作をする量子機械を基本原理から作り上げることができるようになります」と、今後の研究の展望に大きな期待を込めました。

(ホフランド レベッカ)

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