非接触磁気ギアの新たな可能性

滑らかな磁気結合の理論を一般化したOISTの研究者。次に3Dプリントした小さな車の模型での実証を目指します。

 カプチーノをいれる際に活躍する最新式のミルク泡立て器にも使われている磁気ギア。磁気ギアは機械式ギアと同様に回転運動を伝達するものですが、歯車の代わりに回転する磁石の間の引力と反発力を利用しています。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)ソフトマター数理ユニットのポスドク、ヨハネス・シュンケ博士が、引っかかりなく均一な動作を生み出せる滑らかな磁気結合がもたらす可能性と応用の幅を広げる理論を科学ジャーナル「Physical Review Applied に発表しました。本研究は、ナノ技術、マイクロフルイディクス、ロボット工学などへの応用が期待されます。

 磁気ギアは機械式ギアと比べていくつかの点で優れています。いちばんの利点は、パーツ同士が直接接触しない点です。時計に使用されるような機械式ギアは、歯車と歯車が直接噛み合って運動を伝えますが、磁気ギアは非接触です。磁気ギアには潤滑油を差す必要もなく、メンテナンスが容易であるだけでなく、信頼性と効率が高く、振動や音も抑えられます。今日存在する最も強力な永久磁石を構成するのは、鉄、ホウ素、ネオジムからなる合金で、多くの磁気ギアに使用されています。

 料理に使うフードミキサーや化学実験室にある磁気撹拌器、産業用の磁気結合装置に見られる機構は、2つの磁石が同一の軸上を回転するという発想に基づいています。入力軸と出力軸の傾斜角度を自由に設定できないかと考えたというシュンケ博士は、更に「2つの磁石の配置によっては、3つ目の磁石を特定の位置に追加し、滑らかな連結を保つことが可能となります。」と言います。これを、2つの磁石がバドルに、もう1つが駆動装置に接続されたパドル船を例に説明します。駆動装置の磁石を回転させると、バドルが同方向に動き、船を前進させます。興味深い点は、磁気結合の非接触という性質上、パドルの軸は船の外に設置されており、船体を貫通することはありません。但し、連結を滑らかにするには、三角形に配置する磁石の位置が極めて重要となります。将来的にこうした技術が、特にマイクロ・ナノシステムに役立つと考えられます。船のパドルの例と同様に、マイクロチャンネルの中に設置されたミニポンプとバルブの運動が外側から非接触で制御できます。

 機械式ギアと磁気ギアの類似性を、個別の軸の周りを回転する四極子と磁石の間の相互作用に当てはめて考えることができます。四極子のひとつとして、2つのN極と2つのS極が交互に中心に向くように4つの磁石を十字に配置する構成があります。四極子は単一の磁石の倍の歯があるギアと考えられます。つまり、磁石が一回転したときに、四極子はまだ半回転しかしていないことになります。機械式ギアの歯車の機構と同様に、磁石の回転につれて四極子が回転します。

 今後の研究について、シュンケ博士は「パドル船の設計原理をもとに、数センチの強力な球形磁石を3つ使用し、3Dプリントしたおもちゃサイズの車を製作することを考えています。そのプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)プロジェクトの実施に最適なObjet Connex 500 3Dプリンターが導入されたばかりです。」と説明し、「試作品を使った実証試験で理論を検証するのがとても楽しみです」と期待を込めました。

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