2013-12-09

ヘビ毒の謎に迫る

 沖縄にはオキナワハブとヒメハブの2種の在来種の毒蛇が棲息しています。ハブは成長すると主に哺乳類を捕食するようになる反面、ヒメハブは生涯蛙を捕食します。猛毒を持つハブは日本最大かつ最も危険な毒蛇であり、成長すると2.5m程まで達することもあります。

 ヘビの毒には、各種の生態や進化起源を反映した、獲物を動けないようにする様々な蛋白質や生体分子が含まれています。ハブ毒は急速に血管に穴を開け激しい出血を起こす上、血を凝固不能にし、組織や細胞を破壊させることによって、ハブは獲物がまだ生きている状態から消化を始めます。対してヒメハブは体長80cm程度と比較的小さく、毒性も微弱で、同じ在来種の毒蛇であるにもかかわらず2種の生態と毒の特徴には大きな違いがあります。

 毒に含まれる蛋白質は獲物をしとめる働きがありますが、時には医療現場で応用されることもあります。例えば、ブラジルに棲息するマムシから発見された生体分子は、血圧低下を促進する薬品の開発に使われています。

 OISTでは、ハブとヒメハブの毒の特性について調べるべく、相異なる専門の研究者たちが共同研究を進めました。11月14日に学術誌BMC Genomicsから発刊された論文では、スティーブン・エアド博士とアレキサンダー・ミケェエブ准教授、及び共同研究者たちが、これら2種のヘビの毒の蛋白質構成には大きな違いがあり、また、これまでヘビからは見つかったことのない蛋白質を発見したと発表しました。

 今回の研究の最大の成果は、トランスクリプトームとプロテオムの相関関係が実証されたことです。トランスクリプトームとは、蛋白質のコードであるmRNAを総称して言い、プロテオムは、細胞内で生産された全ての蛋白質の総体を示します。これまでの研究では毒の蛋白質構成の同定をトランスクリプトームから得られる間接的なデータに頼っていました。この手法の方が、量的なデータを得やすかったからです。しかし、RNAのデータを得るためには、ヘビを解剖し毒腺を取り出さなくてはなりませんでした。

 対して、プロテオムのデータは、毒そのものを解析することで得ることができます。人間が必要に応じて唾液を生成できるように、ヘビは難なく毒を生成できるので、毒を採取するだけのこの手法はヘビに危害を与えません。プロテオムは、質量分析法によって分析されます。質量分析法では、蛋白質を分解しアミノ酸配列を測定することにより、対象物に含まれる蛋白質の種類や各蛋白質の質量が明らかになります。かねてより質量分析によりどのような蛋白質が含まれるかの研究はなされていましたが、それぞれの質量を測ることはできませんでした。しかし、OISTが所有する最先端の質量分析計と質量分析を行ったOIST生物研究支援セクションスタッフの巧みな技術によって、これが可能となりました。

 トランスクリプトームとプロテオムの相関関係が確認されたことによって、プロテオムのデータも毒の成分を調査する上で大変有用な手段であることが実証されました。将来的には、更なる基礎化学と質量分析の技術向上によって、毒蛋白質の種類と質量が質量分析法のみで測定可能となり、ヘビを犠牲にする必要性がなくなります。

 質量解析を得意とするアレハンドロ・ビジャールブリオネス技術員は、本研究は彼のプロテオムに関する専門知識と、ミケェエブ准教授のRNA解析やバイオインフォマティクスの専門知識と、エアド博士の毒蛇の生態や毒の生化学についての知識が組み合わさったことで達成できたすばらしい共同プロジェクトだったといいます。「一つの研究ユニット内だけではできないような学際的な研究を展開できて刺激的だった」と彼は振り返りました。

(五十嵐 杏南)

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