2012-07-18

最先端技術で沖縄の歴史をひも解く

 OISTにおける教育研究活動の基本理念のひとつに、学部を設けず分野の垣根を越えた研究を行うことがあげられます。研究者らは絶え間なく交流し、お互いの知識や研究機器を共有しています。OISTのアニヤ・マックディヴィス女史の研究は、これに加えて芸術や歴史、科学という異分野間の橋渡しも行っているのです。

 OIST着任以前は米国ニューメキシコ州を活動拠点としていたマックディヴィス女史。現在はOISTのサイエンステクノロジー・グループに所属し、那覇市立壷屋焼物博物館と読谷村立美術館と連携して、様々な沖縄の文化財の研究を行っています。

 マックディヴィス女史はコンサベイター(保存修復家)として、次世代の人々が文化財の価値を享受できるよう、その保存活動に尽力してきました。実際の保存修復作業は、まず対象となる文化財の物理的・化学的組成を分析した上で、保存・修復の手法に対しそれがどのような反応を示すかを理解することが不可欠となります。このような事前調査を通じて、研究者はその文化遺産の歴史や当時の社会環境について極めて多くの事柄を知ることができるのです、とマックディヴィス女史は説明しています。

 那覇市の壷屋焼物博物館では、マックディヴィス女史によって昔は陶器がどのように作られていたかを調べる長期的なプロジェクトが進められています。おそらく、県産陶器に関する綿密な研究としては初の試みと言えるでしょう。沖縄は主要貿易ルートが交わる交差点に位置するため、県内の陶工たちは、歴史的にも日本本土や中国、韓国、東南アジア諸国から様々な影響を受けてきました。このため、陶器の産地を特定するには念入りな科学的調査が欠かせません。

 マックディヴィス女史は実に多岐に渡る方法を用いて修復する文化財について調べています。それらには、陶器の微量物質の検出を行う蛍光X線、有機物質の分析に用いる赤外分光法、釉薬の組成分析に使うラマン分光法(物質による光の非弾性散乱により波長の変化が生じるラマン効果)などがあげられます。しかし、マックディヴィス女史が読谷村立美術館に所蔵されている100年前のものという1本の三線について調べ始めたところ、通常の手法では不十分ということが分かりました。一般的に三線には蛇皮、その多くがニシキ蛇の皮が張られていますが、初期観察を行った結果、この三線には明らかに蛇とは全く異なる動物の皮が使われていることが分かりました。

 その後マックディヴィス女史がOISTの生物学者アレクサンダー・ミケェエヴ准教授に話をしてみたところ、三線に使用されている動物を特定するためにDNA解析を取り入れるよう勧められました。同女史にとって馴染みの薄い研究手法ではありましたが、ミケェエヴ准教授率いる生態・進化学ユニットのマン・イー・ティン技術員の協力の下、現在解析が進められています。「どのような結果であろうと興味深いです。」と、マックディヴィス女史は心待ちにしています。「それが単なる牛やヤギの皮だったとしても、従来の製作には使われていなかった素材です。人々が蛇皮の使用をやめるに至った100年前に一体どのような出来事が起きたのでしょうか。」と、同女史は付け加えました。

 読谷村立美術館所蔵の赤い漆器の重箱も、新たな難題を突き付けいています。セットとして美術館に寄贈された重箱のうち、一つの状態がもう一つに比べて格段に悪いことにマックディヴィス女史は気づきました。そこで、この見た目の違いの原因は漆の組成の違いなのか、保存条件に因るものなのかを明らかにしようとしています。

 マックディヴィス女史の沖縄文化財の保存・修復の取組みに対する両館および一般からの反響は大きく、また、今春開催されたOISTオープンキャンパスでの講演後にも多くの方から関心が寄せられたそうです。「私の研究は、OISTで行われている他の研究とは違う方法で沖縄の人々と関わり合いがもてる点がユニークと思います。」と、マックディヴィス女史はその魅力について語ってくれました。

(サミュエル・ピルグリム)

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