2021-09-17

ファイバートラッキング(繊維追跡法)で乱流の重要な新事実が判明

本研究のポイント

  • 乱流は、ランダムかつカオス的であり、様々な規模で発生するため、計測が困難であることで知られている。
  • 本研究では、トレーサー粒子ではなく、繊維を用いて新たな乱流計測方法を開発した。
  • 本計測方法をコンピューターシミュレーションと実験の両方で検証した。
  • さまざまな長さの繊維を用いてさまざまな規模の乱流を計測した。
  • 最小の繊維の動きから、乱流の特徴を明らかにする上で重要なエネルギー散逸率を計測することができた。

概要

心雑音や石油のパイプライン輸送、飛行機の揺れや汚染物質の拡散など、乱流は日常の多くの場面で重要な役割を果たしています。しかし、当たり前のように存在している乱流でも、その渦の一見予測不可能な動きについては、まだ科学では完全に解明されていません。

このたび、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、イタリアのジェノバ大学、スウェーデン王立工科大学(KTH)およびスイス連邦工科大学チューリッヒ校は、国際共同研究によって乱流の新たな計測方法を開発しました。通常の計測方法で使用する粒子の代わりに繊維を用いることで、乱流のより詳細な姿を捉えることができました。本研究成果は、9月17日に米国物理学会のPhysical Review X誌に掲載されました。

本論文の著者でOISTの複雑流体・流動ユニットに所属するポストドクトラルスカラーのステファノ・オリビエリ博士は、次のように述べています。「乱流は非常にユニークで複雑な現象で、古典物理学における最後の未解決問題とさえいわれており、予測も、シミュレーションも、計測も難しいのです。」

乱流の計測は、さまざまな理由で物理学者にとって重要な課題となっています。乱流は、カオス的でランダムな性質を持っているだけでなく、一度にさまざま規模で発生します。流体の渦は、より小さな規模の渦に分かれていき、最終的には粘性を持つ非常に小さな渦になり、流体の運動エネルギーが熱として周囲に伝達されます。

さまざまな規模で発生する乱流の渦。

現在、最も一般的な乱流計測方法は、流体にトレーサーと呼ばれる粒子を投入し、その動きを追跡することです。トレーサー粒子は、微小で密度が流体に近いため、流体の流れと同じ速度で同じ方向に動きます。

しかし、流体の渦がどのように動いているかを観察するためには、1つの粒子を観察するだけでは不十分です。物理学においては、特定の距離にある2つの粒子が互いにどのような位置関係で動くかを明らかにする必要があるのです。渦が小さければ小さいほど、その動きの特徴を明らかにするためには、2つの粒子が近い距離にある必要があります。

乱流の計測をさらに困難にする原因は、その特徴の1つである拡散性です。乱流は時間の経過とともに拡散するため、トレーサーも拡散します。特に海流のような開放的な流れでは、多くの場合、トレーサー粒子がすばやく拡散してしまい、渦の動きを計測することが困難です。

「トレーサー粒子はそれぞれ独立して動いているので、適切な距離にあるトレーサー粒子を見つけるためには、たくさんのトレーサー粒子が必要です」とOISTの複雑流体・流動ユニットを率いるマルコ・ロスティ准教授は説明します。

「しかし、トレーサー粒子が多すぎると、流れを乱してしまうこともあります」ともロスティ准教授はつけ加えています。

研究チームはこの問題を回避するために、トレーサー粒子の代わりに繊維を使うという革新的で容易な解決策を考案しました。

研究チームは、乱流にさまざまな長さの繊維を投入してコンピューターシミュレーションを行いました。繊維は硬いため、各繊維の末端は一定の距離に保たれていました。各繊維が時間の経過とともに流体中でどのように動き、回転するかを追跡することで、乱流の規模や構造を全体的に把握することができました。

「硬い繊維を用いることで,一定の距離を隔てた2点間の流れの速度と方向の違いを計測することができ、これらの違いが渦の規模によってどのように変化するかを確認することができました。また、最小の繊維を追跡することで、流体の運動エネルギーが最大の渦から最小の渦に伝達し、熱として散逸する速度を正確に計測することができました。エネルギー散逸率と呼ばれるこの値は、乱流の特徴を把握する上で非常に重要です」とロスティ准教授は説明しています。

2021-09-17

研究チームは、乱流に繊維を投入してシミュレーションを行った。繊維の動きから流体の流れの情報を得ることができた。

研究チームはまた、実験室でも同様の実験を行いました。使用する繊維として、ナイロン製のものとポリジメチルシロキサンと呼ばれるポリマー製のもの2種類を製造しました。これらの繊維を水槽内の乱流に投入して実験したところ、シミュレーションと同様の結果が得られました。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究チームは、密閉した水槽内に乱流を発生させ、繊維の動きを追跡した。

Credit: 
https://holznerlab.ch

一方、研究チームは、硬い繊維を使用することで繊維の末端の全体的な動きが制限されてしまうという重要な点に注意を促しています。

「繊維は硬いため、たとえ流れの方向であっても、末端同士がお互いに向かって動くことはできません。つまり、繊維ではトレーサー粒子のように流れの動きを完全に表現することはできないのです。ですから、シミュレーションや実験を始める前に、このような動きの制限を考慮に入れた適切な理論を構築する必要がありました。これがこの研究の最も困難な部分だったと思います」とオリビエリ博士は説明しています。

研究チームは実験室において、水槽内の同じ乱流に高濃度のトレーサー粒子を投入し、従来の方法での計測も行いました。2つの異なる計測方法で得られた結果はほぼ同じで、ファイバートラッキング(繊維追跡法)と新たに構築した理論から正確な情報が得られることが検証されました。

今後は、同計測方法を拡大させ、動きの制限が少ない柔軟な繊維を取り入れたいと考えています。また、水や空気とは異なる動きをする複雑な非ニュートン流体の乱流を計測するための理論も構築する予定です。

ロスティ准教授は次のように述べています。「この新しい計測方法は、特に海流のような大きく開放的な流れの乱流を研究する科学者にとって、非常にエキサイティングな可能性を秘めています。これまで困難だった計測が簡単にできるようになることで、乱流の完全な理解に向けて一歩前進できるのです。」

発表論文詳細:

論文タイトル: Fiber Tracking Velocimetry for two-point statistics of turbulence
著者: Stefano Brizzolara, Marco Edoardo Rosti, Stefano Olivieri, Luca Brandt, Markus Holzner and Andrea Mazzino
発表先: Physical Review X
DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevX.11.031060
発表日: 2021年9月17日

ヘッダー画像は、航空機によって乱流が作り出されるようすを描いたもので、出典元はウィキメディア・コモンズです。アメリカ航空宇宙局ラングレー研究センターのカタログに掲載された画像です。

(ダニ・アレンビ)

広報や取材に関して:media@oist.jp