タコも夢を見る?タコにも人間のレム睡眠に似た睡眠段階があるという事実が初めて明らかに

人間などの哺乳類と同様に、タコにも2段階の睡眠段階(静的睡眠と動的睡眠)があり、動的睡眠はレム睡眠と似た性質を持っていることが明らかになりました。

A stylized illustration of an octopus dreaming on a coral reef with bingata influence

眠っているときのタコは、じっとしていたかと思うと突然活動的になり、腕や目がピクピクと動いたり、呼吸が早まったり、体色が鮮やかに変化したりするときがあります。 

沖縄科学技術大学院大学(OIST)とワシントン大学による共同研究チームは、このような動的睡眠段階にあるタコ(ソデフリダコ:Octopus laqueus)の脳活動や体色模様を詳細に調べ、それらが覚醒時の神経活動や体色模様とよく類似していることを明らかにしました。このような睡眠中におこる覚醒状態様の脳活動は、哺乳類のレム睡眠(急速眼球運動を伴う睡眠で、多くの夢はレム睡眠中に起こる)中にも見られます。

Sleeping octopus
静的睡眠中のソデフリダコは、体色が白く、じっとしている。このように静かに眠っている状態から、約1時間おきに突然覚醒状態に似た性質を持つ睡眠状態(=動的睡眠)になる。 浅田渓秋(OIST技術員)
静的睡眠中のソデフリダコは、体色が白く、じっとしている。このように静かに眠っている状態から、約1時間おきに突然覚醒状態に似た性質を持つ睡眠状態(=動的睡眠)になる。 浅田渓秋(OIST技術員)

日本時間の6月29日(英国28日)に科学誌Natureに掲載された本研究では、タコと人間の睡眠行動に驚くべき類似性があることが明らかになりました。また同時に、睡眠の起源と機能に関する興味深い洞察も浮かび上がりました。本研究論文の責任著者である、OIST計算行動神経科学ユニットのサムエル・ライター准教授によると、睡眠という行動はすべての動物が何らかの形で行っているもので、クラゲやミバエのような単純な動物でさえも例外ではないということです。しかし、睡眠に2つの段階があるのは脊椎動物だけである、と長年にわたって考えられてきました。 

タコの睡眠に関するこれらの新しい発見は、OISTの「理論科学客員プログラム」を通じてOISTに3ヶ月間滞在した、ワシントン大学の統計物理学者レノイ・メシュラム博士によってもたらされました。「タコの脳は、大きいけれども脊椎動物とは全く構造が異なります。タコと脊椎動物は遠縁の生物ですが、このように同様に2段階の睡眠が独立して進化していることから、覚醒状態に近い活動的な睡眠段階を持つことは、認知機能の複雑性を示す一般的な特徴であると考えられます。」 

研究グループはまず、この活動的な睡眠段階にあるタコが本当に眠っているのかどうかを調査するため、物理的な刺激を与えて、反応を調べました。その結果、静的睡眠・動的睡眠どちらの段階でも、覚醒時よりも強い刺激を与えなければ反応がみられないことが確認されました。また、タコの睡眠を妨げたり、動的睡眠段階の途中で睡眠を中断させたりすると、その後に動的睡眠段階に入るタイミングが早まり、頻度も増すことが明らかになりました。 

本研究の筆頭著者の一人であるOIST博士課程学生アディティ・ポフレさんは、「このような睡眠不足を補償するような行動は、タコが適切に機能するうえで動的睡眠段階が不可欠であることを裏付けるものです」と述べています。 

さらに、覚醒時と睡眠時のタコの脳活動を調査したところ、静的睡眠段階において過渡的におこる特徴的な脳波が観測されました。これは、ノンレム睡眠中の哺乳類の脳にみられる「睡眠紡錘波」という波形によく似ています。この波形が正確にどのような機能を果たすのかは、人間においても明らかにはなっていませんが、記憶の固定に役立っていると考えられています。研究グループは、共同筆頭著者の真野智之博士が開発した最新の顕微鏡を用いて、タコの脳の中でも学習や記憶と関連する領域に睡眠紡錘波が発生していることを突き止めました。このことから、睡眠紡錘波様の脳波は人間の脳と同様の機能を持っている可能性が示されました。 

研究では、タコはほぼ1時間に1回、1分程度の動的睡眠段階に入ることが確認されました。このとき、タコの脳活動では、人間のレム睡眠と同様に、覚醒時の脳活動と非常によく似ていました。 

研究グループはさらに、覚醒時と睡眠時のタコの体色模様の変化を8Kの超高解像度で撮影して解析を行いました。 

メシュラム博士は、高解像度で撮影することで、全身の体色模様が描き出される際に、個々の色素細胞がどのように変化するのかを観察することができると説明しています。「このデータをもとに体色模様の簡単なモデルを構築することができれば、覚醒時と睡眠時の体色模様生成の一般原理を解明できるかもしれません。」 

タコは覚醒時、皮膚にある無数の小さな色素細胞を利用して膨大な種類の体色模様を作り出し、さまざまな背景に合わせて体をカモフラージュしたり、捕食者を威嚇したり、互いにコミュニケーションをとったりしています。研究グループの報告によると、動的睡眠の間、タコの体色模様は覚醒時に見られるのと同じ模様を次々に示しました。 

動的睡眠段階に体色模様が変わるソデフリダコ。

研究グループは、動的睡眠状態と覚醒状態が似ているのには、さまざまな理由が考えられるといいます。一つには、覚醒時に上手く擬態行動を取れるようにするため、睡眠中に体色変化を練習しているか、あるいは単に色素細胞を維持するために行っているという説があります。 

この他にも、覚醒時に狩りをしたり、捕食者から隠れたりした体験をタコが睡眠中に再現して学習しており、それぞれの体験に応じた体色模様を再現しているのではないかとする興味深い説もあります。つまり、夢を見るのと同じような現象が起きている可能性があるということです。 

ライター准教授は、「この点で言うと、目が覚めてはじめて見た夢の内容を言葉で伝えられる人間とは異なり、タコの場合は、体色模様の変化から睡眠中の脳活動を視覚的に読み取ることができるということになります」と述べ、次のように付け加えています。 

「これらの説に正解があるのか、あるとすればどちらが正しいのかは、今のところわかりません。今後さらに調査を進めていきたいと考えています。」 

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