数学と理論物理学の架け橋となるプログラムがOISTで開催

OIST理論科学客員プログラム(TSVP)で、初の「テーマ別プログラム」を開催。漸近法の分野の共同研究を促進

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沖縄科学技術大学院大学(OIST)の理論科学客員プログラム「TSVP」が主催する初のテーマ別プログラム「Exact Asymptotics: From Fluid Dynamics to Quantum Geometry(精密な漸近法~流体力学から量子幾何学まで~)」が、8月1日から10月30日まで開催されました。 

漸近解析は、巨大なサイズや、長い時間の経過、極小の量子の振る舞いなど、極限値に近づけた場合に、システムがどう作用するのかを理解するために用いられる手法です。その背後にある考え方は、より単純なものに修正を加えることによって、複雑なシステムを理解することです。 

プログラムを通じて、ミニコース、セミナー、討論会、シンポジウム「Nonlinear differential equations and the Stokes phenomenon(非線形微分方程式とストークス現象)」などが開催されました。プログラムの科学コーディネーターはSamuel Crew博士(ルール大学ボーフム)、Harini Desiraju博士(シドニー大学)、Omar Kidwai博士(バーミンガム大学)、Gergő Nemes博士(東京都立大学)、Phil Trinh博士(バース大学)が務めました。 

テーマ別プログラムに参加する研究者は、1~3か月間、OISTのTSVPオフィスを拠点に研究することができます。9月4日から15日にかけて開催されたシンポジウムは、世界各国から様々な分野の研究者が集い、テーマ別プログラムの中核を担うイベントとなりました。参加者の中には、研究のためにOISTに早めに到着したり、遅くまで滞在したりする研究者もいました。 

TSVPでは初めてとなる「テーマ別プログラム」。シンポジウムは10日間にわたって開催された
TSVPの初回テーマ別プログラムとして、「Nonlinear differential equations and the Stokes phenomenon(非線形微分方程式とストークス現象)」をテーマに、10日間のシンポジウムが開催され、国内外から数学者や理論物理学者が集まりました。   

明晰な頭脳がひとつ屋根の下に 

場の量子論や代数幾何学、流体力学など、多様でありながら相互に関連する研究分野から研究者、約40名がTSVPの第1回テーマ別プログラムに参加し、新たな、そしてユニークな研究チームを形成しました。 

テーマ別プログラムは研究者がそれぞれの関心のある研究内容について提案書を提出し、厳しい審査を経て、採用されます。提案書は、少数精鋭の専門家集団によって重要なブレークスルーがもたらされる可能性のある、理論科学における最先端のトピックに焦点を当てたものでなければなりません。  

TSVPアカデミックコーディネーターのヨナス・フィッシャー博士は、「これは単なるプログラムではありません。アイデアの“るつぼ”であり、多様な視点と共同イノベーションだと言えます」と説明します。 

快適な環境を提供する客員研究員オフィス
OIST理論科学客員プログラム(TSVP)オフィスは、黒板や世界的に有名となった羽衣チョークや、飲み物などを完備し、海の見える快適な環境を提供している。 

イベント参加者でコーディネーターの Harini Desiraju博士は、テーマ別プログラム参加者の学問分野の境界が曖昧であることが、学際的なコラボレーションを促進したとコメントしました。「このプログラムの参加者たちを、数学者だとか物理学者だとか、厳密に区別することはなかなかできません。あいまいな境界をもちながら連続している『スペクトラム』のように、数学者寄りの人もいますが、ほとんどの研究者はその間のどこかに位置し、その区別はあまり重要でなくなります。私たちはここにいる間、お互いの専門知識からいかに学べるかに重点を置いています。」 

フィッシャー博士は、年間6つのテーマ別プログラムを開催するというTSVPの長期目標に期待を寄せています。「OISTを代表するすべての研究領域から、より幅広いトピックを取り上げることができるようになります。このようなプログラムを定期的に開催することは、アイデアの交換に役立つだけでなく、世界の科学界におけるOISTの知名度を高めることもつながります。」 

沖縄の美しい自然を散策する客員研究員ら。
沖縄の美しい自然を散策する客員研究員ら。

OISTは長期の客員研究員を歓迎 

理論科学客員プログラム(TVSP)を通じて、長期の客員研究員は、3か月から1年間(平均6か月間)、OISTに滞在します。客員研究員はOISTに到着する前に、共同研究を希望する研究ユニットを複数、決めておきます。より広い範囲の研究を希望する人もいれば、主に一つのユニットに集中する人もいます。 

着任後、客員研究員は自由に研究を進めることができます。自身が選択したOISTのユニットと共同研究することも、独自の道を切り開くことも可能です。このプログラムの重要な点は、研究に専念する機会を提供し、科学的探求と発見のための支援環境を作り出すことにあります。 

このプログラムへの応募者は年々増えており、2021年には60件、直近の2023年の公募では130件の応募がありました。テーマ別プログラムの導入により、TSVPの初年度は20名だった客員研究員が、2年目には100名近くにまで増加しました。 

TSVPと2024年に予定されているテーマ別プログラムの詳細については、こちらをご覧ください。ポッドキャストでもTVSPについて紹介しています。: OISTポッドキャスター・イン・レジデンスのDJニック・ラスカムによるOISTの理論科学客員プログラム(TSVP)紹介 

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