ノーベル賞級ロボットの科学者が生まれる?

北野宏明教授が、AI科学者に関するビジョンと、それによって科学的発見にどのような革命がもたらされるかについて語りました。OISTポッドキャストの最新エピソードです。

podcast episode 23 AI robots

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より多くの科学的な発見を、より速く導き出すには、どうすればよいのでしょうか。

生身の人間の科学者には、様々な限界があります。特定の仮説に偏ってしまったり、大規模な分析ではどうしても飽きや疲れがきますし、特定の概念を容易に理解できなかったり…。このような限界があるが故に、世界全体で達成可能な科学的ブレイクスルーの数に制限が加わっていると考えています。また、気候変動や高齢化、新たな疾患など、私たちが直面している課題に対処するためにも、科学的発見をより速く導き出す必要があります。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の統合オープンシステムユニットを率いる北野宏明教授は、人工知能(AI)の能力を活用すれば、こうした認知や行動の限界を超えることができると考えています。北野教授は、最近npj Systems Biology and Applicationsに掲載された記事で、審査員に人間ではないと気づかれずにノーベル賞を受賞できるようなAI科学者を作りたいというビジョンを記しており、これによって、半世紀後には現在よりも10倍以上速く科学的発見が可能になるだろうと予測しています。

サイエンスコミュニケーターのルシー・ディッキーが、北野教授から同研究についてお話を伺いました。OISTがこの研究の中心となることを望む理由についても北野教授は語っています。

北野教授は、次のように説明します。「1日に処理可能なデータ量に関して言うと、人間の認知能力には、ある意味限界があります。人間は、疲れたり飽きたりするし、同じレベルで注意力を維持することはできません。高精度解析も、1日に10〜20回程度なら可能ですが、1日1,000回のデータ解析を3年間継続して行うとなると、許容範囲を超えてしまいます。しかし、機械にはそれが可能です。文句も言わずにやってくれます。あらゆる仮説を調べ、人間のバイアスに左右されることなく、どの仮説が正しい可能性が高いかを判断することも可能となるでしょう。」

北野教授は、AI科学者が支援できる研究例として、自身の研究テーマである「老化」を挙げています。現在、研究者の間では、老化についていくつかの仮説があります。

「老化をどのようにして制御するかに関する網羅的な研究計画があれば、非常に面白いと思います。AI科学者は、このようなことに利用することができるのです。」

同時に、AI科学者は、最初は細胞レベルでの実験を網羅的に行うことで、細胞やホメオスタシスなどどのような制御メカニズムが老化やその他の疾患に影響を与えているのか、それらがどのように治療可能かを調べることができ、創薬につながる可能性があります。

「本当に大きな可能性があります。このシステムを利用して、幹細胞研究や再生医療、そして生殖医療に使用する細胞をリプログラミングする最善の方法は何かを理解することができます。そのためには、細胞の性質をどのようにして制御するかに関する網羅的な実験を行う必要があります。」

しかし、これはロボットによる科学の乗っ取りの始まりなのでしょうか?

北野教授は、次のように断言しています。「ロボットに乗っ取られることはありません。現実には、非常に競争力のあるシステムになりますが、それなりに高価でもあります。同時に、この機械で自動的な発見が可能であることを人々が理解すれば、システムを悪用して有害なものが発見されることがないように、このシステムの運用方法に関する倫理基準についての国際的な規制が生まれるでしょう。」

北野教授のAI研究やOISTでの経歴に関する詳細はOISTフォーラム2021(日本語、英語字幕あり)でご覧頂けます。

Day 2 全編動画

研究論文:

論文タイトル: Nobel Turing Challenge: creating the engine for scientific discovery
掲載先: npj Systems Biology and Applications
著者: 北野宏明
DOI: 10.1038/s41540-021-00189-3
発表日: 2021 年6月18日

 

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