2017-02-17

奪われた王位:トゲオオハリアリのコロニーで繰り広げられるメスの階級争い

  アリやハチのような社会性のある昆虫は、組織的複雑性をもつ真社会性があります。そこではコロニーにおける各個体が、独立した生物としてよりも、全体の一部として行動します。コロニーにおいて各個体は、生殖階級であれ労働階級であれ、属する社会的階級に応じた特定の任務を遂行します。多くの種では、生殖の役割は発達段階の早期から決定づけられ、成虫となる前に女王や労働階級の個体は、明白な外見及び生体機能の区別ができ、決まった役割を演じるようになります。注目すべきは、アリもハチも別個に真社会性を獲得しながら進化してきたにも関わらず、彼らの社会には皆、このような階級の区別があるということです。このことからある疑問が生じます。これらの異なる生物は、まったく同じ種であっても類似する種であっても、遺伝子として社会階級を分化させながら進化したのでしょうか?

  この問題への答えを導き出す方法のひとつとして、一般的なルールとは違う例外的な種を観察するという方法があります。多くのアリの種では、女王アリは働きアリに比べ、ずっと大型です。ところが、沖縄原生のトゲオオハリアリなどは、働きアリの階級と生殖アリの階級でほとんど外見上の違いが無いのです。その結果、生殖アリと働きアリ両方を含む社会階層がコロニーに存在していているにもかかわらず、この種のアリは「女王がいないアリ」と呼ばれています。

(上)トゲオオハリアリ。トゲオオハリアリは、働きアリと生殖アリの階級間での身体的な差異はなく、各個体は青年期まで生殖能力を持つ。 (下)一般的なアリの種であるコカミアリでは、女王アリは、かなり小型の働きアリに囲まれている。女王アリと働きアリの差異は、幼虫の発達初期段階において既に決定される。

(上)トゲオオハリアリ。トゲオオハリアリは、働きアリと生殖アリの階級間での身体的な差異はなく、各個体は青年期まで生殖能力を持つ。

(下)一般的なアリの種であるコカミアリでは、女王アリは、かなり小型の働きアリに囲まれている。女王アリと働きアリの差異は、幼虫の発達初期段階において既に決定される。

  異なる階級間での生理学的な差異がないと言う点で、トゲオオハリアリは研究対象として特別な魅力があります。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の生態・進化学ユニットを率いるアレキサンダー・ミケェエブ准教授は、以下のようにコメントしています。「発達初期段階で生殖能力が決定する多くのアリの種と違い、トゲオオハリアリは、青年期までにすべてのアリが生殖階級になりうるという珍しい生物学的特徴を示します。」トゲオオハリアリにおいては、成虫となったメスアリがさなぎから孵化する際、ゲメと呼ばれる一対の羽のようなものが付いています。このゲメを保持しているメスは、どの個体でも生殖することができますが、恐ろしいことに、生殖機能を持つアリの中でも支配層にいるゲーマーゲートと呼ばれるメスが、若いメスアリを攻撃し、ゲメを切断してしまうのです。この暴力的なゲメの切断行為により、若いメスアリは子宮を発達させることができなくなり、永久不妊となってしまいます。すると、不妊のメスアリは、働きアリ階級に入るのです。しかし、ゲーマーゲートと呼ばれる支配的なメスアリがいない場合は、若いメスアリはゲメを保持し、生殖階級の一部となるのです。

  科学者たちは、この切断行為が分子レベルにおいて、アリにどのような影響を与えるのか解明したいと考えていました。この問題について、OISTの生態・進化学ユニットは、琉球大学と東京大学の研究者らと共同で、遺伝子発現パターンを研究する目的で、沖縄本島の様々な場所のトゲオオハリアリのコロニーを収集しました。一般的に、すべての生物において、遺伝子は制御のされ方により、「on」と「off」の状態になります。どの遺伝子が「on」の状態、すなわち発現した状態になるかによって、同一のDNAを持つ生体であっても、異なる外見、能力、機能を持つようになるのです。

  ミケェエブ准教授は続けます。「私たちはどの遺伝子が階級の差異を決定づけるのかを見極めるため、同じ発達段階にあるゲメを切断されたアリと切断されていないアリの遺伝子発現を比較しようとしました。さらに私たちは、トゲオオハリアリにおける異なる階級のアリと、多種のアリの遺伝子発現パターンを比較することで、真社会性の進化の源を解明できるのではないかと考えました。」本研究では、主に栄養に関連するほんの少数の遺伝子のみが、働きアリ階級と生殖階級の間で分化することがわかりました。この結果により、生殖に必要なエネルギーレベルの増加が、真社会性への進化の要素となっている可能性があると言えます。

  これらの遺伝子の中には、ハチやその他のアリの種においても、発達段階の途中で階級決定に影響するものも発見されています。OISTの生態・進化学ユニットでは、Molecular Ecology誌に掲載された本研究の結果を用い、さらに真社会性の進化の起源を調査しようと計画しています。ミケェエブ准教授は、「階級がいかに繰り返し進化してきたかも併せて、アリとミツバチにおける遺伝子発現の発達様相を比較するため、さらなる研究を進めようとしています」と、つけ加えました。

(サラ・ウォング)

広報や取材に関して:media@oist.jp

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