「仮想生体モデル」を育てる科学者たち

OISTオープンバイオロジーユニットでは、生体機能をパソコン上でコンピュータモデル化するシステムであるPhysioDesignerの開発を行なっています。

 北野宏明教授率いるOISTオープンバイオロジーユニットでは、生体機能をパソコン上でコンピュータモデル化するシステムであるPhysioDesignerの開発を行なっています。このシステムは、時間の経過や外部からの刺激に対し、生体がどのような反応を起こすのか、パソコン上で予測することを可能とする、いわば仮想生体モデルの実現を目指すものです。その応用分野は幅広く、医学、生理学、薬理学などの分野で画期的な成果を生み出す可能性を秘めています。これまでにPhysioDesignerを用い、同時摂取した複数の薬物の体内での動きを検証した研究論文が、同ユニットと他大学の共同研究によりPLOS  ONEに発表されました。また、PhysioDesignerとその他の連携するシステムの有益性と活用を呼びかける寄稿も、計測自動制御学会の学会誌上で発表されています。長い歴史を有する仮想生体モデル構築の研究において、特にPhysioDesignerの機能の充実性は国際的評価も高く、製薬会社や化粧品会社などから反響が集まっています。

 同ユニットの浅井義之研究員は、「仮想生体モデルの構築は様々な課題との戦いです」と話します。それはどういうことでしょうか?課題は生体の複雑性にあります。私たちの体は、タンパク質でできた細胞、細胞の集合である組織、またその集まりである臓器、といった階層がいくつも積み重なり、多階層構造を有する一つの生体として機能しています。PhysioDesignerでは、各階層で起こる様々な生体の反応を計算式に置き換え、計算により生体の変化を予測します。生体では階層間が互いに影響し合い、複雑な反応を引き起こすため、個々の計算回路を繋げて考える必要があります。そして生体には、未だに解明されていない機能も膨大に残っており、一つ一つを解明し数式化する事も容易ではありません。生体に近いモデルを構築するためには、絶えず新しい情報や研究成果を融合する必要があり、そのための新たなツールも必要となります。

 そこで浅井研究員は、研究者間の交流の場とデータバンクの役割を持つPhysiome.jpというポータルサイトを刷新し、PhysioDesignerと連携させました。Physiome.jpは研究者に開けた環境を提供し、個々の研究室に囚われない新たな研究プラットホームとなり得ます。しかしシステムが大きくなると、それを管理する高度な技術も必要という課題が生じます。

 これら一連のシステムの構築は、巨大な図書館の運営に例えられます。PhysioDesignerでは、数式を言語とした本を編集するためのツールが用意されています。書かれた本はPhysiome.jpという本棚に納められ、多くの科学者が閲覧でき、意見を交換しながら再編集を行なうこともできます。そしてこれら多くの本や、本棚の管理を行なう司書の役割も用意されようとしています。オープンバイオロジーユニットでは、これら本と本棚、司書を納めた学際性豊かな一つの図書館の完成を目指しています。最後に浅井研究員は、「OISTから学際的研究の基盤を創造し、世界でも中心的な役割を担えるよう尽力したいです」と締めくくりました。

西岡 真由美

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