2014-04-25

多動性障害のメカニズム解明に挑む

 私たちの体を構成する約60兆個の体細胞では、細胞と細胞の間で、絶えず情報のやり取りが行われています。情報は化学物質として放出され、細胞膜にある受容体がそれを受け取り、細胞内に情報を伝えます。山本雅教授率いるOIST細胞シグナルユニットは、LMTK3という受容体の細胞内輸送に関わるタンパク質を欠損させたマウスの行動を仔細に調べ、これらのマウスが多動性行動異常を示すことを明らかにしました。この研究成果はJournal of Neuroscienceに掲載されました。多動性は、落ち着きや協調性の欠如、攻撃的な行動として現れる行動障害の一つです。これらの行動を引き起こす一因となる遺伝的背景が明らかになることで、人における注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉症などの行動障害の病態メカニズム解明に繋がることが期待されます。

 LMTK3という細胞内タンパク質は、脳内において知覚、運動、思考などを統合する大脳皮質や記憶・学習を司る海馬に多く存在します。脳は多数の神経細胞がシナプスと呼ばれる接合部位を介して情報伝達を行っています。シナプスでは、情報を送る前シナプスから神経伝達物質が放出され、後シナプスに存在する受容体がそれを受け取り、神経細胞間の情報を伝えます。同研究チームは、LMTK3が後シナプス内において、神経伝達物質の受容体の輸送を制御するタンパク質であることを突き止めました。LMTK3を欠損したマウスの神経細胞では、この受容体が細胞内に蓄積しており、シナプスにおける情報伝達を正常に行うことができないと考えられます。そして、LMTK3を欠損したマウスの様々な行動異常を調べたところ、落ち着きのない行動や音に対する過敏反応などの多動性障害の性質を示すことが分かりました。またLMTK3が欠損したマウスでは、同時にドーパミンが高い数値を示すことも確認されました。ドーパミンは運動調節、ホルモン調節、感情表現や意欲、学習などに関わる神経伝達物質の一つで、その過剰な分泌は、神経活動の統合性が失われ、思考や感情のバランスが乱れる統合失調を引き起こすことで知られています。LMTK3の作用とドーパミン代謝の関係や、LMTK3による受容体輸送の制御と多動性発症に至る詳細なメカニズムは解明されておらず、研究チームは引き続き、LMTK3の働きと多動性との相互関係を明らかにしていこうとしています。

 私たちの体の中には、まだその働きが十分に解明されていないタンパク質が多数存在しています。細胞シグナルユニットでは、細胞内に存在する様々なタンパク質が、細胞内での活動を介して私たちの体をどのように維持、調節しているのか遺伝子レベルで研究を続けています。今回の論文発表を受けて、山本教授は「研究を更に進め、行動異常を示す疾病解明に切り込む一つのツールになることを希望しています」と話しました。

西岡 真由美

(西岡真由美)

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