新研究ユニットの紹介:小さな研究対象の大きな謎

エヴァン・エコノモ准教授率いる生物多様性・複雑性研究ユニットでは、古典的な分類学ツールに加えて、ゲノムシーケンシングやコンピュータモデリングを用いて、動植物の種がどのように進化し、移動し、環境に適応するかを研究しています。

 この度OISTに発足した生物多様性・複雑性研究ユニットのメンバー達は、6月20日に第2研究棟の稼働が開始されたことに格別の思いがありました。なぜなら彼らはその数週間前にOISTに着任して以降、図書室の中で作業していたからです。第2研究棟はレーザーや最新鋭分析装置に特化して建設された実験室やクリーンルームを備えています。その中で同ユニットの新たな作業スペースがどこであるかは、積み重なった収集箱、山積みされたピンセット、キャンプ装備の詰まった箱の存在ですぐに判別できました。

 エヴァン・エコノモ准教授率いる生物多様性・複雑性研究ユニットでは、これらの古典的な分類学ツールに加えて、ゲノムシーケンシングやコンピュータモデリングを用いて、動植物の種がどのように進化し、移動し、環境に適応するかを研究します。そして、この大きな謎を解明するため、アリの1つの属について世界的規模で研究し、太平洋諸島のアリ社会全体についても調べています。

 なぜアリを研究対象としているのでしょうか。そしてなぜ太平洋諸島なのでしょうか。エコノモ准教授によれば、アリは生態学的にきわめて重要であり、地球上のすべてのアリを合わせた質量は、全人類の質量とほぼ同じであるそうです。「アリは、土壌に空気を含ませ、栄養分を移動し、受粉の手助けをしています。またアリでは、複雑な社会が進化しており、これはあらゆる生物種のなかでもきわめて異例です。そうした中、アリは生態学および進化生物学における根本的な疑問に取り組むためのモデルシステムとして一般に用いられています。」と、エコノモ准教授は述べています。同准教授が太平洋諸島を選んだ理由は、ある程度孤立し、限定しやすい研究場所があるだけでなく、条件の異なる様々な島同士での比較が可能になるからです。「ダーウィンの時代から、こうした比較的扱いやすい島の生態系が、この分野の進展に大きく貢献してきました。」と、エコノモ准教授は言います。沖縄のような島の生態系は、世界で最も特徴的なもののひとつであり、また森林伐採、気候変動、侵襲性の種などが原因で最も危機に瀕した状態にもあります。

 新ユニットでは複数の関連プロジェクトを実施します。1つ目のプロジェクトでは、記載種が1,200を超える世界で最も多様性の高いアリの属であるオオズアリ属(Pheidole)について調べます。オオズアリ属に新種が生まれる頻度は、ほぼすべての動物のなかで最も速いのですが、この「超多様性」の理由はまだ解明されていません。エコノモ准教授の目標は、この属が形態学、生理学、生態学、行動学的にどのように進化して多様化し、世界中に広がったかという点について理論を検証することです。2つ目のプロジェクトでは、太平洋諸島の外来種のアリを追跡調査し、在来種を駆逐して優位性を獲得できた要因や、新たな生息地での進化に伴い、その行動が経時的に変化するのかどうかを明らかにします。そして3つ目のプロジェクトは、機械学習およびコンピュータ視覚を用いてアリ種を同定する方法の開発です。これにより、例えば税関職員が、スマートフォンのアプリを用いて、発見したアリが危険な外来種であるかどうかを判断することが可能になります。また、こうしたアプリは、観察対象に関する説明を一般の人々にも分かりやすいものにすることで、アリウォッチングをバードウォッチングと同列の趣味とすることも可能であるとエコノモ准教授は述べています。最後に同准教授は、「新しい技術を用いて、科学者や一般の人々が自然とふれ合う方法を変えていきたいと考えています。OISTはこの目標を追求するのに適した本当に素晴らしい場所です。」と、語っています。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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