新型コロナウイルス感染拡大モデリング

OISTの研究チームが、沖縄県における新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大をモデル化し影響を予測しました

OIST生物複雑性ユニットを率いるシモーネ・ピゴロッティ准教授とポスドク研究員のディーパック・バット博士、ダビデ・キュウキュウ博士、パウラ・ヴィラマーティン博士が、沖縄県内での新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大と影響を予測する2つの数学モデルを構築しました。

モデリングの手法と結果(仮)が記載された論文(査読前であり現在も編集中)は、取り急ぎウェブサイトに掲載され、今後プレプリントサーバーであるmedRxivに掲載される見通しです。

研究グループは感染拡大を追跡するため、世界中の他の研究グループによって作成され確立されたモデルに基づき、今回のモデルを構築しました。 研究では、沖縄の事例にモデルを適合させ、毎日の症例数、入院率、那覇空港に到着した推定感染者数、沖縄県の年齢分布、利用可能な集中治療室の病床数に関する情報を組み込みました。

「収集したデータによると、4月に沖縄での新型コロナウイルス症例数は指数関数的に増加し、症例がおよそ5日ごとに倍増していることがわかりました。入院率を見ると、沖縄には4月中旬までに何千人もが新型コロナウイルスに感染していた可能性があるとモデルは推定しています。」と、ピゴロッティ准教授は説明します。

今回の分析による発見は、世界の他の地域における予備データによって裏付けられており、海外で行われた抗体検査によれば、実際の症例数は、確認された症例数の28倍から55倍の間である可能性が示唆されています。

今回研究者らはモデルを使用し、いくつかの封じ込めシナリオ(封じ込め対策なし、厳格な封じ込め対策あり、ゆるい封じ込め対策あり)における、症例数の総数、死亡者数、集中治療室の病床超過率を予測しました。 モデルはまた、新型コロナウイルスの感染拡大に対し、時機を逸した後で封じ込め対策を講じた場合の影響も予測しました。

分析結果は、沖縄での症例者数と死亡者数を減らすため、即時かつ厳格な封じ込め措置を講じることの重要性を強調しています。

封じ込め対策なしのベースラインシナリオを使用した場合、感染者1人から広がる感染者数を示す数学用語の基本再生産数(Ro)を2.5と推定しました。この場合のRo=2.5とは、感染者1人につき、平均して2.5人に感染させることを意味します。

この条件のもと、モデルは沖縄県の人口の大部分が新型コロナウイルスに罹患すると予測しており、ピークはおよそ5月末に発生し、その時点で約5,000の集中治療室の病床が必要となるとしています。モデルはまた、2020年末までに約2万人の死亡者数を予測しています。

「これらの結果は、仮説に基づく最悪のシナリオを表しています。実際には、学校の閉鎖、一部の公共イベントの中断、より厳格な空港管理など、いくつかの封じ込め対策がすでに実施されており、これらはすべて感染拡大の低下に寄与します。」と、ピゴロッティ准教授は付け加えます。

次に研究チームは、2つの異なる封じ込めシナリオについての予測調査を行いました。1つ目は、厳密な封じ込め対策を講じることで、Roが65%減少して1よりわずかに下回る数値となるシナリオで、つまり感染者1人が平均して1人未満に感染を引き起こす場合です。2つ目はゆるい封じ込め対策を講じ、Roが40%減少して約1.5になるというシナリオです。

本モデルにおいて、厳格な封じ込め対策での最初のシナリオでは、死者数が1,000人に減少し、感染ピーク時に170の集中治療室の病床が必要になることが示されました。 対照的にゆるい封じ込め対策を講じた第2のシナリオでは、感染症ピーク時に2,700の集中治療室の病床が必要となり、感染流行の終わりまで約14,000人という高い死亡者数が予測されました。

「この調査結果は、新型コロナウイルスの蔓延を食い止めるため、厳格な封じ込め対策を通じRoを1未満に抑えることがいかに重要であるかを強調しています。またRoをただ1未満に減らすだけでも最良のシナリオではないという点も注意が重要です。 沖縄の封じ込め対策がRoを65%以上減少させるくらい効果的であれば、死者数をさらに減らせることができるでしょう。」と、ピゴロッティ准教授は述べています。

研究チームはまた、新型コロナウイルス感染拡大への対策を遅れて講じた場合の影響も評価しました。モデルにおいて、厳格な封じ込め対策を12日間遅延させた 5月1日に講じたとすると、約4,000人の死亡を予測し、ピーク時には約800の集中治療室の病床数が必要になることがわかりました。

「この研究の目的の1つは、沖縄の状況がどのように展開しているかを理解することでしたが、結果において重要な点は、沖縄県の政策決定への一助となり得ることでしょう。モデルを使用し、新型コロナウイルスによる潜在的な影響を推定することにより、いつどのように対策を講じるかについて、沖縄県はより多くの情報に基づいた意思決定を行えるのではないでしょうか。」と、ピゴロッティ准教授は語ります。

本研究の完了とほぼ同時期に、玉城デニー沖縄県知事が、新型コロナウイルス対策のより厳格な措置を導入するため、緊急事態宣言を発表しました。必要な場合のみ外出し、必要不可欠でない旅行を控え、他人との接触を減らすよう県民に強く要請すると共に、徹底した手洗いとマスク着用によって自分の身を守るように指示を出しています。

研究ユニット

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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