2019-08-19

複雑な分子の合成に成功

 自然界には、生物機能を示す複雑な分子がたくさんあります。このような分子は医薬品として有用ですが、それらを天然の植物や海洋産物から大量に抽出するのは、多くの場合、困難です。また、これらの分子を実験室で合成することも可能ですが、通常、多段階を要し、その合成研究は、通常、容易ではありません。今回、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者は、医薬品開発に有用と考えられるスピロピランポリサイクル(SPP)と呼ばれる複雑な分子を、簡単に合成する方法論を開発しました。

 Communications Chemistry(Springer Nature Publishing)に掲載された研究論文の中で、OIST生体制御分子創製化学ユニット(Chemistry and Chemical Bioengineering Unit)の研究チームは、SPP化合物を、「有機化学の勝利」とも言えるような、簡単な方法で合成する手法を報告しています。

 「ポリサイクルに含まれる6員環の炭素原子の一つを酸素に切り替えて「ピラン」にすると、炭素のみで構築された場合と比べ、異なる性質、生物活性を持つことが期待されます。このような複雑な分子を簡単に合成できたことをうれしく思います。開発した合成法、また、この分子合成戦略は、医薬品開発の際に有用であると考えられます。」と、OIST生体制御分子創製化学ユニットのポストドクトラルフェローであるソヘル・ムハンマド博士は説明します。

研究チームにより報告された、スピロピランポリサイクルの鏡像体セットの一例

 SPPは複雑な形状の分子です。人間の右手と左手が重ね合わせることができない鏡像であるように、今回合成したSPP分子も、鏡像異性体が存在します。鏡像となる因子を構築する部分は、「キラル中心」として知られています。今回合成したSPPには、実に6か所ものキラル中心があます。これが、このような分子を合成する際の困難さの要因となっています。

 OIST生体制御分子創製化学ユニットの研究チームは、以前、炭素原子のみを含む環で構成される、複数のキラル中心を含むポリサイクルの合成を報告しています。その際、1つの鏡像体のみを選択的に合成する触媒系を開発していました。

 炭素−炭素間の結合の長さと炭素−酸素間の結合長さは異なるので、酸素を含むSPP化合物の合成には、炭素のみで構成されるポリサイクルの合成法とは異なる工夫が必要になります。今回、研究チームは、以前に開発した方法を活用することに加え、新たな工夫により、酸素を含む6つのキラル中心を持つSPP化合物の合成を可能にしました。

スピロピランポリサイクルの合成(本論文より引用)

 SPPは、生物活性を有する天然化合物に似ています。分子結合の長さが異なるものを合成できたので、創薬への活用への期待の幅を拡張できました。また、キラル中心の構造が異なる分子のそれぞれは、生物活性機能が異なると期待されます。従って、それらを混合物として合成するのではなく、ある立体構造を持つものを、高選択的に、単一の生成物として合成することが望まれます。今回、複数の異性体が生成する可能性がある中、単一の立体構造を持つ生成物を選択的に合成する方法を開発したことは、生成物である化合物の応用を考える上でも重要です。

 本研究は、有用な、複雑な種々の分子を簡単に合成することに向けての、一歩前進にすぎません。研究チームは、さらなる、スマートな合成手法の開発と共に、創薬に役立つ分子創製戦略の開発を目指しています。

本研究の著者のひとりであるムハンマド・ソハイル博士

本研究の論文:
Muhammad Sohail and Fujie Tanaka
Dynamic stereoselective annulation via aldol-oxa-cyclization cascade reaction to afford spirooxindole pyran polycycles
Communications Chemistry 2019, 2, article number 73, doi:10.1038/s42004-019-0177-5
本論文のURL: https://www.nature.com/articles/s42004-019-0177-5