2019-12-25

神経伝達のメンテナンスに関わる細胞骨格タンパク質

  沖縄科学技術大学院大学(OIST)の細胞分子シナプス機能ユニットの研究者たちは、ラットの脳幹からスライスを作成して巨大シナプス前末端「ヘルドのカリックス」を可視化し、これまで不明であった細胞骨格タンパク質の役割を明らかにしました。

  最初の発見は、江口工学研究員(現所属:ISTオーストリア)とローラン・ギヨー・グループリーダーの技術指導の下にOIST博士課程学生のラシュミ・ピリヤさんによってなされ、学位論文としてまとめられましたが、その後、ハンイン・ワン研究員が実験を追加して内容を固め、この度、Journal of Neuroscience誌に掲載されました。

  神経疾患の原因につながるシナプス前末端の分子メカニズムを明らかにすることで、パーキンソン病やアルツハイマー病の発症メカニズムの理解を前進させることが期待されます

図1 (A)軸索とシナプス前末端 (B) シナプス伝達

細胞の中に張り巡らされてる細胞骨格タンパク質は、微小な管状構造をしているチューブリン重合体「微小管」と、螺旋状の繊維状構造のアクチン重合体「アクチン繊維」から形成され、これが細胞の構造と機能を支えている。神経細胞の微小管は軸索に存在していて、細胞体とシナプス前末端の間をつなぐレールとして分子やオルガネラの輸送を行っている(図1A)。これに対してアクチン繊維は軸索の先端、シナプス前末端に局在している。シナプス前末端には伝達物質を充填された「シナプス小胞」が多数存在してる。活動電位が細胞体から軸索を経てシナプス前末端に到達すると前末端にドックしている小胞が放出部位の膜と融合して開口し、伝達物質を放出する(図1B)。興奮性シナプスでは伝達物質のグルタミン酸が放出される。グルタミン酸は拡散してシナプス後細胞のグルタミン酸受容体と結合して、シナプス応答「興奮性シナプス後電位(EPSP)」を発生させ、EPSPのサイズが閾値を超えると活動電位が発生して、シナプス後細胞の軸索末端に向かって伝播される。この確立したシナプス伝達過程のなかで、骨格筋タンパク質が果たしている役割はまだ解明されていない。

         

  本研究で明らかになったことは次の3点です。

(1) シナプス前末端における微小管とシナプス小胞の共存

  STED顕微鏡を使ってヘルドのカリックスを蛍光組織観察したところ、シナプス前末端内の小胞の約半数が微小管のごく近くに平均44 nmを隔てて存在すると計測されました(図2)。

図2 ヘルドのカリックスにおける微小管(緑)とシナプス小胞(赤または黄色)の部分的共存をSTED像の3次元再構築により画像化。小胞の約半数(赤)が微小管から100 nm以内(平均距離44 nm)に存在し、他の半分(黄色)は100 nmより遠隔に存在する。

(2) アクチン繊維と微小管はそれぞれシナプス小胞の高速、低速補充に関わる

  シナプス小胞が末端膜にドックした後、放出部位において伝達物質を放出すると、空白になった放出部位にドック小胞が速やかに補充され(時定数tf 0.2秒)、次いで、空白になったドック部位に予備小胞が比較的ゆっくりと(時定数ts 2秒)補充されます。今回の実験で、微小管を脱重合すると、この遅い補充時間(ts)が延長することが見出されました(図3A)。また、補充速度は微小管の脱重合に相関することが確認されました(図3B、相関係数0.98)。一方、アクチン繊維を脱重合すると、即時補充時間(tf)が特異的に延長しま した(図3C)

図 3 放出部位の小胞補充速度に対する微小管、アクチン繊維の脱重合効果
小胞枯渇によるシナプス抑制後に、シナプス応答(EPSP/EPSC)が回復する時間経過。ここから小胞補充速度が算出される。微小管の脱重合はtsを特異的に延長させる(赤とピンク)。(B) 小胞補充速度と微小管脱重合程度の相関。 (C) アクチン繊維の脱重合は、即時補充速度(tf)を特異的に延長させる(緑)。

(3) アクチン繊維と微小管は高頻度シナプス伝達の持続を支える

  100 Hzで連続刺激しても、シナプス後細胞は、完全にフォローして少なくとも50秒間は活動電位を100 Hzで発生させます(図4)。しかし、微小管を脱重合したところ、後シナプスの活動電位が欠落するようになり、50秒後には40%が欠落しました。また、アクチン繊維の脱重合では20%が欠落しました。この実験結果からシナプス前末端の細胞骨格タンパク質が高頻度シナプス伝達の精度を維持することが明らかになりました。

図4 左図、シナプス前末端、シナプス後細胞からの活動電位同時記録。

中央図、100 Hzのシナプス前末端活動電位によって後シナプス細胞に誘発された活動電位。刺激開始後1-2秒後(上段)、23-26秒後(中断)、49-50秒(下段)の記録。コントロール(黒)、微小管脱重合後(赤)、アクチン繊維脱重合後(緑)。右図、刺激後40-50秒の時点で誘発された活動電位の割合(%、シナプス後細胞活動電位数/シナプス前末端活動電位数)。

  今回の発見によって、神経疾患に伴うシナプス機能障害の原因を解明するための新たな材料が得られました。パーキンソン病やアルツハイマー病の発症に関わるアルファ・シヌクレインおよびタウ・タンパク質はいずれもシナプス前末端においてシナプス毒性を発揮することから、神経疾患の原因につながるシナプス前末端の分子メカニズムを明らかにすることは重要な課題です。

今回の研究に関わったOIST細胞分子シナプス機能ユニットの研究者たち

左から、ラシュミ・ピリヤ博士、 江口工学博士、 ローラン・ギヨー博士、 高橋智幸教授、 ハンイン・ワン博士

 

 

 

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