量子革命の原動力、「量子エンジン」が実現する日も近い?

高効率な量子デバイス開発の可能性を科学誌「ネイチャー」に発表しました。

量子エンジンシステムがどう動くかのイメージ図

量子力学は、原子や分子といった非常に小さな粒子の性質や相互作用を探求する物理学の一分野です。量子力学の進展により、従来よりも強力で効率的な新技術が開発され、コンピュータや通信、エネルギーなどの分野に画期的な進歩をもたらしています。 

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の量子システム研究ユニットの研究チームは、ドイツのカイザースラウテルン・ランダウ大学やシュトゥットガルト大学の研究チームと共同で、量子力学の原理を利用した、極小のエンジンを設計・製作しました。 

研究では、これまでの燃料を燃焼させる方法によってではなく、量子力学の原理を利用して動力を生み出すエンジンを開発しました。今回の研究論文は、OISTの博士課程学生キールティ・メノンさん、エロイサ・クエスタス博士、トーマス・フォガティー博士、トーマス・ブッシュ教授の共著によるもので、英国の科学誌「ネイチャー」に掲載されました。 

自動車に搭載されている従来型のエンジンでは、通常、燃料と空気が混ざった混合気がシリンダー内で点火されます。その結果、爆発によってシリンダー内のガスが加熱され、熱膨張を利用してピストンを往復運動させ、その動力で車輪を回転させます。 

量子エンジンでは、熱の代わりに、ガス中の粒子の量子的性質における変化を利用します。この変化がどのようにしてエンジンの動力源となるのかを理解するためには、自然界に存在するすべての粒子が、それぞれの量子的性質に基づいて、ボソンかフェルミオンのどちらかに分類されるということを知っておく必要があります。    

量子効果が重要となる超低温では、ボソンはフェルミオンよりも低いエネルギー状態にあり、このエネルギー差をエンジンの動力に利用することができます。従来型のエンジンのように、周期的に気体を加熱・冷却するのではなく、量子エンジンはボソンをフェルミオンに変化させ、また元に戻すことで動力に利用します。    

「フェルミオンをボソンに変えるには、2つのフェルミオンを組み合わせて分子にします。この新しい分子がボソンです。この分子を分解することで、フェルミオンを再び取り出すことができます。これを繰り返し行うことで、熱を使わずにエンジンを動かすことができるのです」と、量子システム研究ユニットを率いるトーマス・ブッシュ教授は説明します。 

量子エンジンシステムがどう動くかのイメージ図
量子エンジンは、ボゾン粒子の気体を圧縮し、フェルミオン粒子の気体を減圧する。画像制作: Mirijam Neve

この種のエンジンは量子の領域でしか機能しませんが、その効率は非常に高く、ドイツの共同研究チームが構築した現在の実験の設定では、最大25%効率を高められることが分かりました。   

量子力学の分野において注目されるこの新しいエンジンは、急成長している量子テクノロジー分野のさらなる進展につながる可能性を秘めています。しかし、これは量子力学が自動車のエンジンに使われる日が近いことを意味するのでしょうか?「このようなシステムは非常に効率的ですが、今回私たちは実験に協力してくれる人々とともに概念実証を行っただけにすぎません」とキールティ・メノンさんは説明します。「自動車で使える量子エンジンを作るためには、まだまだ多くの課題が残されています。」   

また、温度が高くなりすぎると、熱が量子効果を破壊してしまうため、システムをできるだけ低温に保つ必要があります。しかし、繊細な量子状態を保護するために低温で実験を行うにはかなりのエネルギーが必要となります。    

研究チームは、今後、システムの動作に関する基礎的な理論的課題に取り組み、性能を最適化し、バッテリーやセンサーなど、他の機器への応用の可能性についても調査する予定です。   

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