日仏共同セミナー「メタバースとバーチャルリアリティ 」レポート

OIST内外から100名超の参加者が集まり、「メタバース」を支える科学技術について学びました。

Woman using VR headsets

沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、去る4月21日(金)、日仏共同セミナー「Metaverse and Virtual Reality - The Science and Technology of Interacting with Digital Worlds(メタバースとバーチャルリアリティ: デジタルワールドを行き来する科学技術)」を開催しました。本セミナーは、今年3月にOISTの理論科学客員プログラム(TSVP)で客員研究員としてOISTを訪れたフランス国立情報学自動制御研究所(Inria)の研究ディレクターを務めるAnatole Lécuyer博士の提案により実現しました。  

セミナーの目的は、メタバースの構築に必要な幅広い科学技術分野に携わる日仏の専門家が意見交換を行い、協力関係を築くことができる場を提供することです。Lécuyer博士は、「バーチャルリアリティはこれまでも常に学際的な分野でした。あまりにも壮大な分野なので、研究者が一人で挑むのは不可能です」と説明しています。 

本セミナーは、在日フランス大使館より資金提供を受け、OISTのTSVPが、最近OISTの客員研究員に着任したソニーコンピュータサイエンス研究所の笠原俊一博士の協力を得て開催しました。笠原博士は、「私たちは、新しい技術や能力、身体を得られるようになるでしょう。しかし、どのようにしてそれらを主観的に自己として認識できるのでしょうか」と問いかけました。 

冒頭で挨拶をしたOISTの研究担当ディーンのニコラス・ラスカム教授は、OISTのミッションに触れたうえで、それを実現するためには人びとを招き入れることが重要であると強調しました。

セミナーの第一セッションでは、「Embodiment and Interaction(身体化と相互作用)」をテーマに鳴海拓志准教授(東京大学)、Rebecca Fribourg准教授(Ecole Centrale de Nantes)、杉本麻樹教授(慶應義塾大学)が、人間が仮想世界における自身のアバターとどのように相互作用するか、また自身のアバターについてどのように感じるかについて考察を発表しました。  

第二セッションでは、「Augmented Reality(拡張現実)」をテーマにGuillaume Moreau教授(Institut Mines-Telecom Atlantique)、岩井大輔准教授(大阪大学)、伊藤勇太特任准教授(東京大学)が、バーチャルリアリティ(VR)技術の構築に伴う工学的な課題とチャンスについて取り上げました。  

昼食をはさんだ後、第三セッションでは南澤孝太教授(慶應義塾大学)、平尾悠太朗助教授(奈良先端科学技術大学院大学)、堀江新特任助教授(慶應義塾大学)による「ハプティクス(触覚提示技術)」をテーマとした講演が行われ、触覚フィードバックと身体遠隔化の最先端技術が紹介されました。

そして最後の第四セッション「Cognition and Neuroscience(認知と神経科学)」では、Léa Pillette博士(フランス国立科学研究センター、CNRS)と柴田和久博士(理化学研究所脳神経科学研究センター)がバーチャルリアリティの世界との関りが人間の脳に与える影響について講演を行いました。 

最終セッションの後のディスカッションで司会を務めるOIST身体性認知科学ユニットのトム・フロース准教授
最終セッションの後のディスカッションで司会を務めるOIST身体性認知科学ユニットのトム・フロース准教授
最終セッションの後のディスカッションで司会を務めるOIST身体性認知科学ユニットのトム・フロース准教授

セミナー終了後には、Zoomを含めた公開講演会が行われ、100名以上が参加しました。Lécuyer博士と笠原博士は、メタバース関連の研究の現状と今後の方向性について講演を行いました。 

笠原博士は、「人間がコンピュータと融合し、人間本来を超えた能力や異なる身体を獲得する時、自分はどこまで自分であるのか」という問いを投げかけました。

そして、ユーザーがあるタスクを行う際、それを行っているのが自身の身体であるという感覚を失ってしまうと、その行動がもたらす結果や欠点を正しく認識できなくなる可能性があると説明しました。人間と機械が融合するシステムを設計するうえで、自己主体感を維持することは重要です。「今後、自己主体感を維持できる設計をどのようにしてできるかを考える必要があります」と笠原博士は述べました。 

人間と機械の統合システムに関する研究発表を行う笠原俊一博士
人間と機械の統合システムに関する研究発表を行う笠原俊一博士
人間と機械の統合システムに関する研究発表を行う笠原俊一博士

また、Lécuyer博士は、私たち人間と仮想世界との今後の関り方ついて解説しました。博士は、これらの技術は人間の知覚や行動に関する研究に有用なツールとなり得ると述べたうえで、バーチャルリアリティ分野における今後の研究の焦点は、特に神経インターフェースや生理学的コンピューティングを利用し、人間の身体との物理的な融合だけでなく、認知的な面での融合も進んでいくと説明しました。 

バーチャルリアリティに関する自身の研究内容と同分野の現在の方向性について説明する Anatole Lécuyer博士
バーチャルリアリティに関する自身の研究内容と同分野の現在の方向性について説明する Anatole Lécuyer博士
バーチャルリアリティに関する自身の研究内容と同分野の現在の方向性について説明する Anatole Lécuyer博士

最後に、在日フランス大使館の科学技術担当官(アタッシェ)のジャン=バティスト・ボルド博士が閉会の挨拶を述べました。そのなかで、日仏間の共同科学研究を深めるため、フランスでの研究や留学を希望する研究者や学生に渡航支援を行っていると紹介しました。 

閉会の挨拶を述べる在日フランス大使館の科学技術担当官(アタッシェ)のジャン=バティスト・ボルド博士
閉会の挨拶を述べる在日フランス大使館の科学技術担当官(アタッシェ)のジャン=バティスト・ボルド博士
閉会の挨拶を述べる在日フランス大使館の科学技術担当官(アタッシェ)のジャン=バティスト・ボルド博士

プログラム終了後、参加者は笠原博士が最近OISTに設立したCybernetic Humanity Studioを見学し、研究者に話を聴いたり、実際にバーチャルリアリティの実験を体験したりしました。Lécuyer博士は、VRのユーザー体験には非言語的な情報が多く含まれていると説明し、「私たちの研究分野は、人間とコンピュータの相互作用に関わるものです。是非体験してみてください」と勧めていました。

Cybernetic Humanity Studioでバーチャルリアリティに関する研究を体験する参加者
Cybernetic Humanity Studioでバーチャルリアリティに関する研究を体験する参加者
Cybernetic Humanity Studioでバーチャルリアリティに関する研究を体験する参加者

著者:ニック・シャノン、マール・ナイドゥ 

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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