「帽子型の液滴」が明かす、混ざり合う液体の相互作用

混ざり合う液体が「帽子型」の液滴を形成して広がる様子が初めて観察されました。これは、原油流出の被害を受けた動物の洗浄方法の向上などに役立つ可能性があります。

 水たまりに落ちる雨粒やコーヒーに入れたミルクなど、液体を混ぜたり洗い流したりする過程で、液体はどのように混ざり合うのか、不思議です。小さな水滴はまたたく間に吸収されるため、瞬時のことと思いがちです。しかし、実際には、目に見えている以上に複雑な過程があります。

 この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のサイモン・ハワード博士とエイミー・シェン教授は、スタンフォード大学のダニエル・ウォールズさんとジェラルド・フラー教授との共同研究において、液滴が別の混和性の(混合可能な)液体と混ぜ合わせたときに、どのように広がっていくかを初めて観測することに成功しました。これは、液体の混合、希釈、すすぎや洗浄のプロセスに関わるもので、流出した原油が動物に付着した際、皮膚の油とどのように混ざるのか、それらの疑問の解明に発展するかもしれません。この研究成果が記された論文が、Physical Review Fluids に掲載されました。

 論文の共著者で、OISTマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットを率いるエイミー・シェン教授は、「油と水のように混ざり合わない液体の場合、必ず明確な境界ができます。例えば、サラダドレッシングでは、液滴がはっきり見られます。逆に、水と酢のように混ざり合う2種類の液体の場合は、双方が瞬時に一体化し、境界がそれほど明確ではないためにその過程を研究するのはかなり困難となります。」と解説しました。

 研究チームは、相溶性の液体の様々な組み合わせの相互作用を観察するために、スライドガラスに乗せた液滴が、その下に設置した透明の四角い容器に入れた別の液体にゆっくりと浸かる仕組みの装置を作りました。装置の周りに高速度カメラを設置し、液滴がどのように広がり、他の液体と一体化するかを記録しました。写真から、液滴が広がる際に小さな帽子型の形状となり、つばに当たる部分が徐々に広がっていき、最終的にもう一方の液体と一体化することが分かりました。

 

帽子型の液滴の変化
液滴が広がる際、帽子型の形状となり、つばに当たる部分が徐々に広がり、最終的にもう一方の液体と一体化する。

 こうした滴の「帽子」が形成される際、液体に何が起こっているのかを更に詳細に理解するために、研究チームは液体に粒子を加え、レーザーで照射しました。この手法によって、流体の中で何が生じ、どうして滴が帽子型の形状となるのか理解を深めることができました。

 論文の共著者で、OISTマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットのグループリーダーであるハワード博士は、「液滴が表面に広がっていくにつれ、液滴のなかで流体がどのように動くか観察することができました。」と述べ、「この観察から、滴の中央部分の流体は動かず、上端部分から側面へ下向きに流れていることがはっきりと分かりました。」と解説しました。

 

水に広がるコーンシロップの液滴。照射された粒子により、コーンシロップの液滴が水に広がっていく様子が見られます。

 研究チームは、同じ装置で、スライドガラスを注射器に置き換えて実験を行い、注射器の先から放たれた液滴が周りの混和性の液体とどのような相互作用を起こすか観察しました。この実験においても、液体が縁に沿って下へ流れ落ちる様子が見られます。

 

垂れ下がるコーンシロップの液滴が流れ落ちる様子。

 スタンフォード大学博士課程の学生であるウォールズさんは、「混ざり合わない液体と、混ざり合う液体とでは、液体の形がどのように変化するかに質的な違いがあります。混ざり合う液体の広がる様子がこのような形で観察されたのはこれが初めてです。」と述べ、「将来的に様々な応用が考えられます。混ざり合う液体の広がり方を理解できれば、幅広い分野で役立つと期待されます。」とその可能性を語りました。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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