ゲノムジャンボリー:アコヤガイ

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写真提供: ミキモト

 6月の花嫁は「ジューンブライド」と言われ、この月に結婚すると幸せになれるという言い伝えがあります。6月の誕生石であり、その美しい白い輝きが「純粋」「無垢」などの意味合いをもつことから花嫁を飾る宝石として昔から愛されてきたのが真珠です。

 天然真珠は、貝が偶然飲み込んだ小さなかけらが、その体内にとどまり、貝の持つ真珠層で何層にも包み込まれてできる稀少な宝石です。このように自然界の全くの偶然によって作られる真珠ですが、その生成メカニズムについてはいまだに明らかになっていません。

 5月31日~6月2日にかけて、OISTマリンゲノミックスユニット(代表研究者:佐藤矩行博士)は、国内の7つの大学及び研究機関と共同で、天然真珠を生成することで知られるアコヤガイのゲノムをテーマに作業する「ゲノムジャンボリー」をOISTキャンパスで開催しました。この研究集会には、同ユニットから5名と他機関から軟体動物について研究をしている19名が集まりました。

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 ゲノムジャンボリーでは、まずマリンゲノミックスユニットの竹内猛研究員から、同ユニットで昨年の秋から取り組んでいるアコヤガイのゲノム解析の現状について、全ゲノム解読に向けて断片的にゲノム配列がわかってきていることが報告されました。その後は3日間にわたり、解読されたデータを用いて、アコヤガイゲノムの特徴を検証する作業がおこなわれました。具体的には、既にゲノムが解読されている他の動物の遺伝子と比較することで、共通する遺伝子がないか、また、アコヤガイにおいて増加または減少している遺伝子がないか、あるとすればいくつあるかなどをコンピューターで解析して調べるというものでした。

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竹内 猛研究員

 OIST着任前からアコヤガイのゲノム解読をめざしている竹内研究員は、「軟体動物という動物群には、アコヤガイのほかに、シャコガイ・カタツムリ・カサガイなど、貝殻をもつ動物が多く含まれます。貝殻は、他の動物には見られない構造です。進化の過程で、これらの動物は独自に貝殻形成能力を獲得したと考えられます。アコヤガイのゲノムが解読されれば、どの遺伝子がその進化に寄与しているかが予測できるようになります。また、アコヤガイの全遺伝子情報が明らかになれば、美しい真珠がどのようにして形成されるか、その全容が明らかになる可能性があります。」と語っています。

 今回のゲノムジャンボリーで行われた検証作業はコンピューターを利用した情報処理技術による遺伝子予測および機能予測であるため、機能の実証には生物学的な実験を必要とします。本プロジェクトにおいては、情報系の研究者と実験系の研究者がお互いの手法を補い合いながら共同研究は進められていきます。

 竹内研究員と共に本研究集会をとりまとめたOISTの川島武士研究員は、「軟体動物に限らず、ロフォトロコゾア※1のゲノム解読はまだ公表されていないので、アコヤガイのゲノムが解読されればその意義は大きいです。また、アコヤガイが今後軟体動物を用いた遺伝学のモデル生物となる可能性もあるので、その基礎データとして、ゲノム解読は大変重要です。また、産業ベースで日本が世界を牽引してきた真珠の養殖に利用するアコヤガイのゲノムを、日本の研究グループが解読することは、大変重要であると認識しています。」と本プロジェクトの意義について強調しています。

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川島 武士研究員

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OIST研究施設を見学する参加者

※1 ロフォトロコゾア(冠輪動物): 全ての動物を4つのグループ(非左右相称動物、脱皮動物、冠輪動物、新口動物)に分けた場合の一つ。軟体動物の他、川や池といった淡水にすむプラナリアの仲間、二枚貝のような殻をもつ細長い動物である腕足動物などが含まれる。

(名取 薫)

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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