複雑な生命は従来の想定より早く進化していたことが判明
複雑な生命は、従来考えられていたよりも早く、そして長い時間をかけて進化していたことが、画期的な研究によって明らかになりました。この成果は、初期の生命が進化するために必要な条件に新たな光を当てるとともに、長年の科学定説に疑問を投げ掛けています。
本日、科学誌『Nature』に掲載された本研究では、複雑な生物が、大気中に酸素が豊富になるよりもはるか以前に進化していたことを示しています。これは、複雑な生命の進化には酸素が不可欠だとする従来の定説を覆すものです。本研究は、英国のブリストル大学を中心に、王立オランダ海洋研究所(NIOZ)、英国のバース大学、そして沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者による国際共同研究の成果です。
王立オランダ海洋研究所(NIOZ)海洋微生物学・生物地球化学部門(MMB)のAnja Spang教授(共著者)は次のように述べています。「地球は約45億年の歴史を持ち、最初の微生物は40億年以上前に出現しました。これらの生物は、バクテリア(細菌)と、それとは近縁ですが異なるアーキア(古細菌)の二つのグループから成り、総称して原核生物と呼ばれています。」
原核生物は数億年もの間、地球上で唯一の生命形態でした。その後、藻類、菌類、植物、動物などを含む、より複雑な真核細胞が進化しました。
共著者でブリストル大学生物科学学部のDavide Pisani教授はこう語ります。「初期の原核生物がいつ、どのように複雑な真核生物へと変化したかについては、長らく推測の域を出ませんでした。中間的な形態が存在せず、決定的な化石証拠も乏しいため、推定期間には10億年もの幅がありました。」
今回、共同研究チームは、二つの種がどれくらい前に共通の祖先を持っていたかを推定するために用いられる「分子時計」手法を拡張し、これらの疑問に新たなアプローチで取り組みました。
本論文筆頭著者でバース大学生命科学部のTom Williams教授は次のように説明しています。「このアプローチは二段階で行われました。まず、数百種の配列データを収集し、既知の化石証拠と組み合わせて、時間軸を持つ生命の系統樹を構築しました。次に、この枠組みを用いて、個々の遺伝子ファミリーにおける歴史的イベントのタイミングをより正確に解明しました。」
100以上の遺伝子ファミリーの証拠を複数の生物システムから収集し、真核生物と原核生物を分ける特徴に焦点を当てることで、研究チームは複雑な生命の進化経路の解明に着手しました。
驚くべきことに、研究チームはこの移行が約29億年前に始まったことを示す証拠を発見しました。これは従来の推定より約10億年も早い時期であり、核やその他の内部構造がミトコンドリアよりもはるか以前に進化していたことが示唆されました。本研究に関わった、OISTモデルベース進化ゲノミクスユニットを率いるソローシ・ゲルゲイ・ヤーノシュ准教授は、「複雑化が累積的に進行するプロセスは、従来考えられていたよりもはるかに長い期間にわたって起こりました。この研究は、分子時計法の校正と活用に向けた新たな手法の開発を目的に、Williams教授やSpang教授と進めてきた共同研究を基盤としています。その結果、初期進化に関する理解を更新する説得力のある証拠を改めて提供することができました」と述べています。
本研究のデータに基づき、真核生物の誕生(複雑な生命の進化)について提唱されていたいくつかのシナリオを否定することができましたが、データは既存のいかなる理論にも完全に合致しませんでした。その結果、研究チームは、複雑な生命の出現に関する新たな証拠に基づくシナリオを提案し、これを「CALM(Complex Archaeon, Late Mitochondrion、複雑な古細菌、後発ミトコンドリアモデル)」と名付けました。
責任著者であるブリストル大学生物科学部リサーチ・アソシエイトのChristopher Kay博士は次のように述べています。「本研究の特徴は、これらの遺伝子ファミリーが実際に何を担っているのか、どのタンパク質がどのタンパク質と相互作用するのかを、絶対的な時間軸の中で詳細に調べた点にあります。これを実現するには、タイムラインを構築する古生物学、信頼性の高い系統樹を作成する系統発生学、そして遺伝子ファミリーに文脈を与える分子生物学など、複数分野の融合が必要でした。壮大なプロジェクトでした。」
ブリストル大学地球科学部のPhilip Donoghue教授(著者)はこう付け加えています。「最も重要な発見の一つは、ミトコンドリアの出現が予想より大幅に遅かったことです。そのタイミングは、大気中の酸素が初めて大きく増加した時期と一致しています。」
「この知見は、進化生物学と地球の地球化学的な歴史を直接結びつけます。真核生物の祖先であるアーキア(古細菌)は、酸素が豊富になる約10億年前よりも前に、完全に無酸素状態の海の中で複雑な特徴を進化させ始めていたのです。」
ブリストル大学のオリジナルプレスリリースはこちらでご覧いただけます。
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