科学に捧げた人生: ウルフ・スコグランド教授、「不可能」を克服する探求心

研究科長のウルフ・スコグランド教授が退任します。10年にわたるOISTでの先駆的な研究や大学の未来創造への貢献を称えます。

Ulf Skoglund stands at the front of a lecture hall and talks to rows of listeners.

OISTの研究科長で構造細胞生物学ユニットを率いるウルフ・スコグランド教授は、10年以上にわたりOISTで勤務してきましたが、本日3月31日に退任し、名誉教授として母国のスウェーデンに帰国します。 

スコグランド教授のOISTでの歩みは、2010年に始まりました。きっかけは、同僚から沖縄に素晴らしい新大学が設立されることを耳にしたことです。研究者に与えられる自由と信頼度の高さにすぐに魅了されました。 

「スウェーデンなどの多くの国々では、研究の方向性を変えることや、資金提供者が不可能だと考える研究提案に対して資金を得ることは困難です。しかしOISTでは、どんなに不可能に思えるような研究でも、自分で決めることができました」と、教授は言います。 

スコグランド教授にとって、「不可能」な問題を解決することが、若い頃から研究の大きな原動力でした。 

「私は『不可能』という言葉を信じていません。誰かに「それは無理だ」とか「不可能だ」と言われたら、私はいつも、それは本当だろうか、きちんと検証していないだけではないのか、と考えます。」 

その不可能を恐れない姿勢は、多く場面で功を奏しました。スコグランド教授がそのキャリアで初めて目覚ましい成果を挙げたのは、1986年のことです。多くの人が不可能だと考えていた電子顕微鏡トモグラフィーという先駆的なイメージング技術を使って、生体分子の3次元構造を捉えることに成功したことを報告する論文が科学誌Natureに掲載されました。さまざまな角度から撮影した多くの画像を組み合わせて3次元モデルを構築するというもので、一見単純なコンセプトですが、実際には、常に動き続ける試料の画像をすべてそろえ合わせるためには、非常に複雑な数学の知識を必要とします。 

そして次に取り組んだテーマは、断層撮影技術の解像度を上げることでした。 

スコグランド教授は、次のように述べています。「最終的な目標としては、個々のタンパク質の違いを見ることができるほど高い解像度で断層撮影ができるようにしたいと考えました。この課題を解決するために、画像のノイズを減らすための全く新しい数学的アプローチを考案する必要がありました。」 

2004年までには、それぞれのタンパク質の違いを調べるという目標を達成し、OISTでさらに厳密な研究を行った結果、現在では分解能を1ナノメートルまで向上させ、タンパク質の分子動力学を決定する構造要素を調べることができるようになりました。 

スコグランド教授は、次のように述べています。「今では、タンパク質の構造のほんのわずかな変化を検出し、タンパク質が『揺れる』様子を見ることができます。また、AIを使って、自分たちが設計したタンパク質構造が現実に存在しうるかどうか、どのように反応するかを予測することもできます。これは、新薬の設計に革命をもたらすかもしれません。」 

Professor Ulf Skoglund gives lecture with his powerpoint presentation behind him
プロボスト主催の講演会で、OISTの研究者や学生、スタッフを前にタンパク質の断層撮影の研究について説明するウルフ・スコグランド教授

スコグランド教授はOISTに在籍中、自身の研究分野で重要な進展を遂げただけでなく、大学の発展にも極めて重要な役割を果たしてきました。OISTに一台目の電子顕微鏡を導入するため、資金の確保に奮闘しました。また、教授会(ファカルティ・アッセンブリー)議長を務めたのち、2018年に研究科長に着任しました。 

スコグランド教授は、次のように述べています。「研究科長というのは、教員とは全く異なる管理職ですが、支援をするという特殊な立場にあると感じ、新しいことを学びたいと思いました。」 

当時の研究科は、小規模から中規模に拡大したところでした。スコグランド教授は、学生数の増加に対応するために研究科の再編という課題を担いました。 

研究科長を5年間務めた今、スコグランド教授は、変化の機が熟したと感じています。同職務を4月1日付でトーマス・ブッシュ教授に引き継ぎます。 

「指導的立場に新たな息吹をもたらすことが重要だと思います。OISTが小さな、新しい大学から、大きく、確立された機関へと成熟していくにつれ、新しい方向へ舵を切ることのできる新たな人物が必要です。」 

その変化と方向転換を受け入れる姿勢は、自身の研究にも及んでいます。スコグランド教授は、退職後も現在の研究を続けるだけでなく、数学、物理学、生物学の分野で新しいアイデアを追求したいと述べています。 

「誰の人生においても、変化を起こすことは良いことです。OISTを退職することで、若い人たちが上に上がる余地ができ、私はさらに柔軟に研究に取り組むことができます。また、読書やスキー、ハイキング、ウォータースポーツなど、他のことにも時間を割くことができるようになります。」 

科学者を目指す人たちや、まだキャリアの浅い研究者へのアドバイスとして、好きなことを追求することの大切さと、変化を受け入れて不可能を克服するという自身の哲学を改めて強調しています。 

「自分の心に従うだけでなく、大胆であるべきです。多くの人が不可能だと言うようなことをやるべきです。そして、うまくいかなくても、それはそれでいいのです。少なくともあなたは挑戦したのだし、また別の楽しくて面白い道を探ればよいのですから。」 

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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