高効率太陽電池の新素子とは

制御した環境下でおこなう太陽電池フィルムの作製法は、決して効率的とはいえません。一般環境下での製造が可能になれば、より機能性の高い安価なフィルムをつくることができます。

 このたび、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のエネルギー材料と表面科学ユニットの研究員らが 、大気中で作製された太陽電池フィルムが高い光電変換効率を示すことを、発見しました。この研究成果は、太陽電池の製造コストの大幅な削減につながる可能性を秘めており、このたび、米化学会の学術誌Chemistry of Materialsに掲載されました。

 今回の研究で使われたのは、ペロブスカイトと呼ばれる材料です。このペロブスカイトが光を吸収して電気に変換させると2009年以降、世界で太陽電池研究が急速に活発化しました。今では、より高い光電変換効率を目指して、世界中の研究者らが製造技術の開発にしのぎを削っています。OISTでの研究により、ペロブスカイト太陽電池材料の量産化がすすむことが期待されます。

 これまでの研究結果、ペロブスカイトの塗布膜を外気にさらすと、空気中の水分とペロブスカイトが反応を起こし、フィルムの経年劣化を引き起こすと言われてきました。この理由から、ペロブスカイトを製造する際には、水分を除去した環境をつくりだすアニーリング(焼きなまし)と呼ばれる熱処理が必要だと信じられてきました。

 そこで、OISTの研究グループは、湿気がペロブスカイト形成に与える影響を調べようと、セ氏105から125度の温度下でアニーリング処理を45分間おこないました。その結果、太陽電池により適したペロブスカイトの作製に成功しました。その後、同研究グループは窒素環境下で形成されたフィルムと、湿気を帯びた空気中で形成されたフィルムを比較しました。その結果、水分を含んだ空気中で作製されたフィルムには、通常より大きな結晶粒が形成され、材料の性質に大きな改善が見られました。フィルムは時間をかけて形成されるため、結晶粒もより大きなものへと成長します。

  「結晶粒が大きいと、フィルム上の結晶断面が連続的になり、フィルム表面を移動する電子の流れがスムーズになります。」と、論文の第一著者であるルイス・ラガ・ソニア博士は言います。

 大型の結晶粒は、ペロブスカイト太陽電池の効率化につながります。今回の研究では、最高12.7%という高水準の光電変換効率が達成されました。世界を見やると他の研究チームの間でも高い変換効率の向上に成功していますが、OISTの研究成果の強みは何と言っても、空気中の水分を100万分の1レベルまで減少するための高価な環境制御機器を必要としないところにあります。なぜなら、特別な環境を必要としないエア・アニーリング(空気なまし)処理にはコストがほとんどかからないからです。

 もちろん、同様の製造技術において、現在の12.7%という水準が変換効率の頭打ちというわけではなく、この先さらに大きな結晶粒が得られるかもしれません。今後も、太陽電池の光電変換効率を向上させるための研究や開発が世界中でおこなわれていく一方で、今回のような研究成果は、この分野の研究をさらに推し進める起爆剤となり得る可能性を秘めています。

  (ジョイクリット・ミトゥラ)

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