結晶中の磁気モノポールを覗き込む

OISTの物理学者は、スピンアイス結晶における磁気モノポールについて研究を行った結果、同じ磁荷を持つ2層が隣り合う現象の発見に至った経緯を説明します

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 今日の物理学者の大きな目標のひとつに、自然界の力を「大統一理論」に統一させることがあります。大統一理論は、より優雅でより包括的な手法で宇宙を表現することを可能にするでしょう。この理論を完成させるには、磁気モノポールを探し出してその性質を詳しく調べることが重要です。磁気モノポールとは、N極とS極を両方持っている通常の磁石とはちがってどちらか一方の磁荷、つまりN極またはS極だけを持つもののことです。このような単一の磁荷を持つものは存在しないと私たちは思い込みがちです。素粒子としての磁気モノポールは未だに発見されていませんが、凝縮系物理学者らは、この奇妙な粒子を希土類酸化物結晶の中で人工的に生成させることに精力的に取り組んできました。この粒子は、「スピンアイス」と呼ばれています。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のニック・シャノン准教授率いる量子理論ユニットでグループリーダーを務めるルドヴィック・ジョウベルト博士は、独ドレスデンにあるマックス・プランク研究所のローデリッヒ・メスナー教授とともに、スピンアイスにおける磁気モノポールの2層構造について、理論的な説明を試みてきました。この説明に関する論文は、学術誌 フィジカル・レビューB 上で発表され、編集者から特集論文のひとつに選ばれました。

 19世紀には、理論物理学者のジェームズ・クラーク・マクスウェルが電磁場に関する有名な電磁方程式(マクスウェルの方程式)を唱え、電気と磁気を結びつけることにより、統一理論において最初の大きな一歩を踏み出しました。マクスウェルは、変化する磁場が電流を生成し、移動する電荷が磁場を生みだしている様子を観測しました。しかし、電荷は正の電荷または負の電荷になり得るものの、磁石は常にN極とS極の両方を持ちます。磁石を2つに割っても、必ずN極とS極を持つ2つの磁石ができ上がり、N極だけ、またはS極だけを単独で取り出すことはできません。この考えは、絶対零度(0°K、-273°C)に近い温度において、スピンアイス中の電子が磁気モノポールのように集団的に振る舞う現象が発見されるまで、正しいものとされてきました。スピンアイスの磁気モノポールの発見は、過去10年間における世界的な大発見のうちの1つと考えられています。

 スピンアイスは、テトラヘドラと呼ばれる四面体状に配置される原子を持つ物質です。これらの四面体は、パイロクロアと呼ばれる結晶構造に配列されます。四面体ピラミッドのそれぞれの頂点に存在する4つの原子は、通常、「スピン」と呼ばれる微小な磁石を持っています(図では矢印の先がN極、反対側がS極)。

 この磁気モノポールは、ある種のかく乱によってスピンの方向が反転する場合に発生します。発生した磁気モノポールは、反対の「磁荷」を持つモノポールを形成し、スタジアムの観客席で起こるウェーブのように結晶周辺に広がります。四面体の各頂点における各スピンは、隣接する四面体の頂点でも共有されているためです。

 この磁気モノポールは、電子や陽子のような現実の粒子ではありませんが、原子と電子が集団として相互作用をする結果として粒子のように振る舞うことから、「準粒子」と呼ばれています。

 ジョウベルト博士とモエスナー教授は、結晶中の原子のスピンが磁場と相互に作用し合っている様子を、モンテカルロ・シミュレーションと解析的計算を利用して分析しました。博士らは、スピンアイスが、正の磁荷を持つ四面体の2層と負の電荷を持つ四面体の2層が交替することで形成される2層構造を形成することがあることを計算により突きとめました。この構造は、磁石のN極同士を隣り合わせに置こうとしても互いに反発し合うのと同じで、通常は非常に不安定です。ジョウベルト博士とモエスナー教授は、電気分極がこの2層構造を安定化しうることを発見しました。ジョウベルト博士は、次のように話しています。「既に説明されている類似の現象がないかどうか調べていたとき、ある研究グループが絶対零度に近い温度における強力な磁場の下で、テルビウム(Tb)から生成されたスピンアイスを利用して、実験によって同じ結果を得ていたことを知って嬉しかったです。これまで謎だと考えられてきた実験結果を理論的に説明することができるのです」。それぞれの磁気モノポールは電気双極子から発生しますが、ほとんどの物質の電気分極は非常に小さいため、通常は確認できません。ジョウベルト博士とモエスナー教授は、チタン酸テルビウム(Tb2Ti2O7)のスピンアイス結晶においては、電気分極が確認できるほど十分に大きく、磁気モノポールの2層構造を安定化できることを突きとめました。

 ジョウベルト博士は、「その他の物質においても、スピンアイスがよりきわだった成果を導き出すための足掛かりになると考えています」と結論付けています。将来的に、ジョウベルト博士はその他の原子から生成される結晶についても研究を行いたいと考えています。この研究により、電磁気学を超える法則が生みだされるかもしれません。

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