小さな世界の扉を開く―高性能マイクロCT

X線マイクロCTによって、OISTの研究者たちはアリの脳などの極小構造の可視化および高精度3次元測定技術を手にしました。

 ゾンビと太古のアリの共通点と言えば?それは、両方ともOISTでは研究対象であるという点です。エヴァン・エコノモ准教授率いる生物多様性・複雑性研究ユニットでは、生態・進化学ユニットと共同で、X線マイクロCTスキャナを駆使して、アリの脳に寄生し、アリを生きる屍「ゾンビ」に変えてその行動を操る菌の研究に取り組んでいます。また、このスキャナを使えば、何百万年も前に琥珀に閉じ込められた太古のアリを調べることもできます。X線マイクロCT技術により構築される高分解能3D画像は、生き物の形と構造の進化の謎を解き明かすだけでなく、宿主と寄生生物の相互作用といったテーマについても調べるのに強力なツールとなります。

 X線CTとは、X線コンピュータ断層撮影の略称です。医療分野ではおなじみのこの技術は、病気の診断を目的に体のある部位の連続した断面画像を作製するためのもので、体内環境の詳細な観察を可能にします。X線マイクロCTも機能は同じですが、解像度が格段に高く、例えばアリやアリの体内に寄生する生物のような非常に小さなものまで可視化できます。OISTの共有機器として使用できるX線マイクロCTの断面間の幅は1ミクロン以下、つまり1000分の1ミリ以下です。

 このOISTの高性能なX線マイクロCTは、現在、生物多様性・複雑性研究ユニットによってアリの細密画像を撮影するために使用されています。ジョン・ディルップ技術員は、このマイクロCTのエキスパートで何百というアリをスキャンするプロジェクトの主要メンバーです。彼は今回、アリを低密度プラスチックチューブに載せ、スキャナに挿入する過程を実演してくれました。パラメーター設定後、この機器は数時間かけて約1000枚のアリの断面画像を出力するという仕事をやってのけます。その後これらの断面画像はアリの3次元像へと合成されます。ディルップ技術員曰く、「このスキャナを用いれば、組織を壊したり標本を破壊したりすることなく、内部構造を観察できます。解剖ではそうはいきません。これは、解析対象の種のサンプルが1個体しかないときには大きな利点となります。」

 OIST学生のサンドリン・ブリエルさんも、マイクロCTを用いた研究に取り組んでいます。ブリエルさんは、得られた膨大なスキャンデータからアリを分類し、新たな種を見つけ出すための解析手法を開発しています。また、マイクロCTで得られた画像から、OISTの3Dプリンターを用いて実際にアリの3次元モデルを作る技術も開発しました。さらに、このデータをアリの形態計測学研究に応用する課題にも取り組んでいます。つまり、アリの体の形を定量化する手法を生み出し、異なるグループ間の比較研究に使おうというわけです。「マイクロCTのデータから様々な内部組織の体積も明らかになります。例えば脳の体積データは、異なるアリを比較する際の非常に面白い情報となり得ます」と、ブリエルさんは言います。

 このように、OISTの研究員たちはこの機器を用いることで、以前は困難であった生物の外形や内部の構造を可視化できるようになったのです。「X線マイクロCTは、通常は大規模な研究機関にしかなく、多くの研究グループが共有で使用する機器です」とエコノモ准教授は前置きした上で、「OISTのようなまだ小さな機関で、このような研究機器を持つことができるのは素晴らしいことです」と語ります。この共有機器を用いることで、今後OISTのあらゆる研究ユニットからどのような新発見がもたらされるか期待されます。もちろん、先の「ゾンビ」アリについても、重大な謎が解明されることでしょう。

(エステス キャスリーン)

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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