脳の多階層な構造・機能の解明を目指して

日本政府の「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」にOISTが加わります。

 現在、世界各国の政府が国家的に取り組むべき研究として脳のマッピングに力を入れ、脳の秘密を解明しようとしています。米国ではブレイン・イニシアティブ、欧州ではヒューマン・ブレイン・プロジェクトが実施されています。日本においても「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(Brain/MINDSプロジェクト)」が開始され、今後10年間で脳の構造と機能を様々な階層でマッピングすることを目指しています。当プロジェクトから得られる構造・機能マップは、今後ニューロテクノロジー(脳科学の応用技術)の高度化や疾患克服に向けた研究に貢献すると期待されます。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)は17の研究実施機関の1つに採択され、国から資金を受けて研究を行うことが決まりました。OIST神経計算ユニットの銅谷賢治教授がこの研究の指揮をとります。

 銅谷教授の研究提案の中心となるのは、プロジェクト全体を通して得られる様々な構造的及び機能的データを最大限に活用するための計算技術の開発です。マクロ(脳全体)、メゾ(脳の各部の神経回路)、ミクロ(個々の神経細胞)の各レベルで脳の構造及び機能マップを開発するため、全国の研究者がそれぞれの所属機関で最新の脳イメージング技術や遺伝学的手法を用い、マーモセットの脳の神経回路データを収集します。銅谷教授の研究ユニットは、このようなデータを統合して異なる階層におけるモデルを作成し、さらにこれらのモデルを脳全体に関するマクロの階層から、個々のニューロン(神経細胞)間の化学的相互作用といったミクロの階層までを計算機シミュレーションによりつなげていく技術の開発に取り組みます。核磁気共鳴画像法(MRI)、光学顕微鏡、電子顕微鏡等のイメージングをはじめ様々な技術により得られたデータは、各階層のコンピュータモデルとして統合することではじめて、脳の各レベルでどのようにその機能が実現されているのかの理解につなげることができます。さらにこれら各階層のモデルをリンクさせ、遺伝子や神経伝達物質等のミクロレベルの要素が、脳全体の働きに与え得る影響の予測を可能にします。

 銅谷教授のグループは理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」を使って、どれだけ大規模な脳神経回路のシミュレーションが実行できるか実験を行いました。その結果、2011年に世界ランキングで1位となったスーパーコンピュータ「京」は、17億3千万個ものニューロンから成るネットワークのシミュレーションを行えることが示されました。これは6億個のニューロンを持つとされるマーモセットの脳よりも大きな規模です。同教授はこの実験について、「技術的なベンチマークとしては重要であったものの、私たちが使用したのはランダムに接続されたネットワークだったので、脳に関する知見はこのシミュレーションからはあまり得られませんでした。一方、Brain/MINDSプロジェクトの下では、ニューロンの間の結合関係や、様々な行動におけるニューロンの発火パターンについて実際のデータが得られます。我々脳モデルの研究者にとっては、これまでにない機会であり大きな挑戦となります」と語りました。

 銅谷教授は、プロジェクトに参加している先端的な実験神経科学者との協働の機会を楽しみにしています。また、ヒューマン・ブレイン・プロジェクトやブレイン・イニシアティブ、ニューロインフォマティクス国際統合機構(INCF)等、脳の構造と機能のマッピングを目指し世界規模で展開される他のプロジェクトとの連携の道も模索しています。ビッグデータを活用し知の発見のためにコンピュータモデルを構築することは、脳科学のみならず、地球科学や物理学、生物学等多くの分野で注目されるテーマです。同教授は、OISTの学際的な研究コミュニティーが、ビッグデータを活用する科学分野においてお互いにアイディアや技術を交換し合い、生み出す場となればと期待を込めます。

専門分野

研究ユニット

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