2012-11-08

伝達物質、グルタミン酸が補充される速度の実測に成功 -脳神経機能障害の解明と治療に道筋-

 神経細胞は様々な刺激に反応して電気インパルスを発生させます。インパルスが「シナプス」と呼ばれる神経細胞間の繋ぎ目に達すると、シナプス前細胞の末端から化学伝達物質が放出され、後シナプス細胞にインパルスを発生させます。脳のはたらきは、この化学シナプス伝達によって支えられています。化学シナプス伝達を維持するためには、伝達物質が絶え間なくシナプス前末端に補充されなくてはなりません。このたび、米国科学誌ニューロンに掲載された論文の中で、OIST細胞分子シナプス機能ユニットの高橋智幸教授と堀哲也研究員は、神経活動によって使われた伝達物質グルタミン酸が補充される速度を実測することに成功しました。

 化学伝達物質は「シナプス小胞」と呼ばれる、小さな膜コンパートメントの中に貯えられています。インパルスがシナプス前末端に到達すると、小胞の膜が前末端の膜に融合して、小胞が細胞外に開口し、伝達物質が放出されます。伝達物質を放出した後、前末端膜は細胞内に陥入し、切り離されて小胞が再生されますが、この空の小胞に伝達物質が再充填され、シナプス伝達に再利用されます。この「小胞リサイクリング」によって、神経回路は信号のやりとりを続けることができます。伝達物質の小胞への充填速度は神経伝達の頻度を制約する重要な要素ですが、充填速度を正確に測る方法は、今までありませんでした。

 高橋教授と掘研究員は、マウスの脳切片の神経終末端内で小胞に興奮性伝達物質グルタミン酸が充填される時間を測る方法を考案し、充填時定数が15秒であることを突き止めました。更に、この充填速度が、シナプス前末端内のCl濃度が正常値より高すぎても低すぎても遅くなることを見いだしました。この研究により、神経情報伝達の持続を支える小胞充填速度が明らかになり、神経情報伝達の速度を低下させる要因がひとつ明らかにされました。今回の研究成果は、神経情報伝達の基礎知見に貢献すると共に、脳神経機能障害の解明と治療に手がかりを与えるものと言えます。

[発表論文詳細]

  1. 発表先および発表日:
    Neuron (ニューロン) 電子版 2012年11月8日(木)午前2時(日本時間)
  2. 論文タイトル:
    Kinetics of Synaptic Vesicle Refilling with Neurotransmitter Glutamate
    神経伝達物質グルタミン酸のシナプス小胞再充填速度
  3. 著者:
    Tetsuya Hori1,2, Tomoyuki Takahashi1,2
    堀哲也1,2、高橋智幸1,2     1同志社大学大学院脳科学研究科 2沖縄科学技術大学院大学

[付記]

 本研究は独立行政法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として、同志社大学大学院脳科学研究科、シナプス分子機能研究室にて、高橋智幸教授と堀哲也研究員によって行われました。両名は沖縄科学技術大学院大学を兼任しています。

(ヴァネッサ・シパニ)

広報や取材に関して:media@oist.jp

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