沖縄周辺海域に水温計を設置する

天候と技術が味方すれば、OIST海洋生態物理学ユニットの長谷川大介研究員は、今後4年間に大海原から80万通以上のeメールを受け取ることになるはずです。

  天候と技術が味方すれば、OIST海洋生態物理学ユニットの長谷川大介研究員は、今後4年間に大海原から80万通以上のeメールを受け取ることになるはずです。

  結束バンドやプラスチック網とロープ、そして海上保安庁の助けを借りて、高さ10メートルの鉄鋼製の灯浮標2機に取り付けられた海水温観測装置が、現在、水深数メートルの位置で10分ごとに海水温を記録しています。この装置は太陽光発電で駆動されており、組み込まれた携帯電話から1時間ごとに長谷川研究員のもとにデータが送られてきます。

  このプロジェクトは、1年前に始まった第十一管区海上保安本部(十一管本部)との業務協力の第一歩を記すものです。赤と緑の灯浮標は、本来、船を港に誘導したり、航行の障害物を知らせたりする役割を持っていますが、十一管本部が保有するこの2機のブイに初めて科学観測用の海水温観測装置が取り付けられました。沖縄周辺海域の広域にわたってこのような装置が配置されれば、沖縄本島の沖合150 kmを移動する暖かくて流れの速い黒潮の変動を調査する長谷川研究員らにとって、貴重な情報になります。黒潮は南から熱帯域の海水をもたらし、海洋生物の幼生などを運んでくる重要な役割を果たしていますが、現在、沖縄周辺海域では、系統だった情報収集はあまり行われていません。

  海洋生態物理学ユニットを率いる御手洗哲司准教授は、「これは、沖縄のための海水温データである」と言います。

  海水温の上昇によって海洋生物や海流、ひいては地球の気候変動が影響を受けますが、この基本的かつ極めて重要な海洋観測は、OISTの研究者たちが黒潮の経路の変化などの傾向を追跡するために非常に有用です。黒潮は通常は台湾の東から沖縄の西の大陸棚に沿って流れていますが、時に蛇行し、沖合の黒潮の暖かい流れが見慣れない魚を沿岸近くに運んだり、速い流れが漁業者の定置網を損傷したりすることもあります。長谷川研究員は「黒潮の変動は、沖縄周辺海域の環境に様々な影響をおよぼしている」と言います。同研究員は船による黒潮の横断調査を毎月実施しており、流速、水温、塩分、クロロフィル量、溶存酸素量などを測定しています。このようなデータの蓄積によって黒潮がどのように流れ、海域に影響しているかが示されるようになります。

  人工衛星データも、表面海水温を推定するのに有用な手段です。しかし、曇り空の沖縄は衛星による観測にとって厳しい条件で、解像度次第では沿岸の海水温をとらえることができないこともあります。

  今後、さらに3機の海水温測定装置が南大東島、与那国島、久米島で記録を開始する予定です。その他18機の装置が、沖縄県水産海洋研究センターとOIST海洋研究支援セクションの支援により、沖縄諸島周辺に設置されたOISTの係留浮標に取り付けられることになっています。こうした装置の配備は、計画されている観測システムの一部にすぎません。ほかにも、波浪推進により海上を動いてデータを収集するウェーブグライダーも、間もなく運用が開始されます。さらには、ウッズホール海洋学研究所との協力で、海洋観測装置とプランクトン3-Dカメラの水中複合装置が、夏の終わりに美ら海水族館沖の水中に設置される予定です。水族館に接続された長いケーブルを使ってデータのやり取りが行われます。こうした機器の一つ一つにより沿岸の観測が強化され、研究グループは、海流とサンゴの分布がどのように関係しているのかなどを調査できるようになります。

  「私たちはサンゴ礁がこれだけ近くにある恵まれた研究環境にいるのですから、この海域に投資しない手はないと考えました」と御手洗准教授は言います。

  船舶による観測は費用がかかります。ですから他の目的に便乗するのは理にかなっています。十一管本部としてもOISTの海洋データを使えば、船舶からの海上流出油の行方の予測に役立ちます。十一管本部の木村琢磨主任海洋調査官は、「非常に有意義なことです。OISTとの協定にも双方の利益になることが明記されています。」と語ります。海水温データにはウェブ上で誰でもアクセスできるようになる予定で、漁業関係者からの関心が寄せられるだろうと長谷川研究員は言います。

  「こうした小さな装置から得られる情報がやがて大きく連結して、沖縄周辺海域で何が起こっているのかをリアルタイムで垣間見られるようになると期待されます。」と、御手洗准教授は語っています。

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