持続可能な未来の実現に向けた科学技術の使命

1月18日にOISTで講演を行った赤阪清隆氏は、「持続可能な開発」の定義は曖昧だと言います。「持続可能な開発は世界を救うか」と題した講演ではこの言葉に光があてられました。

 1月18日、OISTは前国連事務次長(広報担当)の赤阪清隆氏をお招きして、「持続可能な開発は世界を救うか」と題した講演会をしていただきました。赤阪氏は、「持続可能な開発」という言葉は、農業、ビジネスや経済に関連して頻繁に使用されるものの、その定義は曖昧だと語ります。講演では、この言葉に焦点をあて、1980年代後半より高まった環境配慮の機運が停滞した理由を説明しました。

 現在、フォーリン・プレスセンターの理事長を務める赤阪氏は、科学者と政治家の間に共通認識が欠けていることが進捗の妨げになっていると言います。

 持続可能な開発とは、本来、リソースが将来に渡り枯渇しないように活用していくことを意味し、経済、社会、環境の側面から成り立っています。しかし、往々にして各分野のリーダーが個別の目標を立て、分野を超えた協議が行われてきませんでした。このような分断により、コンセンサスが得られないばかりか、推移を図る指標についてさえ合意することが難しくなっています。経済、気候変動やエネルギー問題が最優先され、持続的な発展は二の次になっていると赤阪氏は語ります。

 「道が明確に示されていれば、各国が目標に向かって進むことができます。」と赤阪氏は言います。

 赤阪氏は統計データを示し、2050年には世界の人口が90億人に達するという予測を示した上で、二酸化炭素排出量の増加、大気及び海水温の上昇、所得格差など、見通しはなかなか厳しいと説明しました。

 また、開発途上国が先進国と同等の発展を目指すことが、持続不可能な消費や二酸化炭素の排出につながりかねません。「誰が責任を持つべきか非常に難しい問題です。」と赤阪氏は集まった聴衆に語りかけました。

 一方、AIDS感染者の減少や、貧困にあえぐ子どもたちの教育向上といった世界的な取り組みも進んでいることから、同氏はまだ希望を失っていないと述べました。

 その上で、赤阪氏は、日本がこれまで培ってきた大気汚染や失業対策などの経験を他国と共有することで重要な役割を担うことができると語り、今後、今年日本で開催予定の環境未来都市に関する国際会議などを含め、日本がトップレベルの会議やパネルディスカッションに積極的に参加することなどを提案しました。

 発展に欠かせないのは科学と政策の連携です。赤阪氏は京都議定書を例にあげ、期待された成果があげられなかった要因のひとつに、協議に科学的な根拠が欠如してことをあげ、OISTは科学的見地から様々な場面で寄与することが期待できると述べました。

 赤阪氏は最後に、一人ひとりがライフスタイルや価値観を見直すことの重要性を強調しました。同氏によると、北京では車に乗っても自転車で移動しても速度は大して変わりませんが、だからと言って、車を使わないよう人々を説得することは難しいのです。この15年間車を持たず、4足の靴を数十年履き回していると言う赤阪氏は、チンパンジーの研究でよく知られ、国連平和大使でもあるジェーン・グドール博士に習い、何かを買う際には「これが本当に必要か」と自分自身に問いかけていると言います。

 講演の最後に赤阪氏は参加者からの質問にも応じました。海流発電による再生可能エネルギーの研究を行っている新竹積教授は、シェールガス開発拡大の動向への懸念を示し、赤阪氏の意見を尋ねました。閉会の挨拶に立ったジェフ・ウィッケンス研究科長は「科学技術による貢献はこれまで十分ではありませんでした。これはOISTに課せられた重要な使命です。」と述べ、講演会を締めくくりました。

 講演の後、若者を激励するため、OISTの学生と懇談し、OISTの施設を見学された赤阪氏は、「OISTは沖縄の誇りだと思います」との感想を述べました。

 

 

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