2012-09-03

浅井義之博士、PhysioDesignerソフトウェアの研究で受賞

 当初、生理学の研究は、生体機能の現象に着目して生命の本質の解明に挑むというものでした。その後、分子生物学の発展に伴い、科学者たちは細胞の生理現象の背後に横たわるメカニズムに分子レベルでアプローチできるようになりました。しかし、ヒトゲノムの全塩基配列が解読されてからほぼ10年が経つものの、生命機能を構成する多くの要素が全体としてどのように相互作用し、どのように機能発現に至っているのか、依然として包括的に理解するには至っていません。

 謎を解く1つの鍵は沖縄科学技術大学院大学(OIST)の北野宏明教授が世界に先駆けて提唱した融合的科学分野にあります。システムバイオロジーと呼ばれるこの新しい分野では、統合的なアプローチでさまざまな生理機能の構成要素に関する知見を集結させ、 その網羅的なモデルを形成することで生命をシステムとして捉えます。 微分方程式のセットを定義することで、例えば、拡散などによりイオンが細胞膜を通過する現象から細胞膜電位のダイナミクスなどの生命現象を再現することが可能になります。このような数理モデルを組み合わせることによって科学者たちは生命のモデルを「構築する」ことができるのです。

 しかし、既存の枠組みでは、複数のモデルを組み合わせることは一筋縄でいく作業ではありません。特に人体のような複雑な生体では、遺伝子、タンパク質、細胞、臓器といった複数のレベルで生理現象を説明する、多階層的な視点を導入する必要があり、それに応じたモデルの開発が必要となるからです。

 そこで登場するのが北野教授率いるオープンバイオロジーユニットの浅井義之博士です。浅井博士は同ユニットの他のメンバーと共同で、多階層的な生理学的モデルを創造しようとする科学者を支援するために、新しいソフトウェアプラットフォームPhysioDesignerの開発に取り組んでいます。先月下旬、浅井博士は、このアプリケーションの研究が認められ、計測自動制御学会(Society of Instrument and Control Engineers; SICE)から学会賞(技術賞)を授与されました。

 浅井博士が大阪大学のプロジェクトに開発リーダーとして参加した2007年、PhysioDesignerinsilicoIDEと呼ばれていました。後にOISTのユニットに加わった同博士は、北野教授とともに設計を大幅に改良し、名称をPhysioDesignerに変えて打ちだしました。研究者たちは膨大な数の「モジュール」というパーツを組み合わせ、各モジュールならびにモジュール間の相互作用を数式で記述することにより生理システムを構築します。各モジュールをさらに細分化して別のシリーズのモジュール群として定義すれば、必要な階層構造をモデル内に表現することが可能なのです。

 このソフトウェアは、XMLベースのフォーマットであるモデル記述言語Physiological Hierarchy Markup Language (PHML)でモデルを保存します。これに加えて、Systems Biology Markup Language (SBML)などの他の言語との連携によっても、モデルを共有したり統合したりすることができます。構築されたモデルは、PhysioDesignerとならんで開発が進められているFlintというシミュレータで計算され、モデルが表現する生理機能のダイナミクスを再現し、数値データを作成することができます。

 このような方法を使った生理機能システムのモデリングは、特に医学・創薬研究において計り知れない可能性を秘めています。「現在は投薬等の治療方針は臨床試験と医師の経験に基づいて決められていますが、もし適切なモデルを開発できれば、医薬品に含まれる化合物と細胞内のタンパク質がどのように細胞内のタンパク質と結合するのかを計算し、最終的には患者に対する総合的な効果を予測することができます。PhysioDesignerはそのような研究の推進をサポートします。」と、浅井博士はその意義を述べています。

PhysioDesignerphysiodesigner.orgのサイトからダウンロードしていただけます。是非お試しください。また、ご意見・ご感想も受けつけています。

(サミュエル・ピルグリム)

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