2012-08-26

次世代の物質

 我々の先祖が初めて道具を使って虫を掘り出したり、敵と戦ったりした時から、我々は物質の基本的な性質という制約を受けてきました。例えば、光はガラスを透過するときに特定の方向に曲がり、物はエネルギーを与えられると熱くなります。そして、ここ数十年間で、物質をナノスケールで操作する技術が物質科学の基本原則を書き換えてきました。例えば、金粒子の色は必ずしも黄色ではなく、粒子のサイズによって変化します。近年、OISTのケシャヴ・ダニ准教授をはじめとする科学者たちは、こうしたナノ操作された物質がいかにして、量子力学や相対性理論の原則に従い、物質の挙動についてよく知られた原則を破るのかを解明しつつあります。

 ダニ准教授のフェムト秒分光法ユニットは、これら次世代の2種類の物質(メタマテリアルとディラック物質)について研究するためにレーザーを使用しています。メタマテリアルは、特殊な光学特性、音響特性、電磁特性およびその他の特性を有するように作られた物質です。物質の特性を制御しようとする際に、科学者は以前から大きな限界に直面していました。すなわち、物質の各電子の挙動を操作することはできませんでした。しかし、近年、研究者たちは確実に予測可能な方法で挙動するように工夫された人工の粒子から物質を作ることによって、この制約を回避するための解決策を解明し始めています。このようなメタマテリアルは驚くべき可能性を秘めています。例えば、メタマテリアルを使用すれば、物体のまわりの光を曲げて物体を見えなくすることができます。逆に、小さすぎて見えない物体を、光波を操作して見えるようにすることもできます。ダニ准教授の研究グループにおける現在のプロジェクトのひとつは、最近開発されたフォトニックメタマテリアルを実験、改良して通信機器の高速化、小型化および効率化を可能にすることを目指しています。

 また、フェムト秒分光法ユニットはディラック物質にも関心を持っています。ディラック物質という名称は、通常、中性子星、白色矮星および遠い銀河で見つかる非常に高エネルギーの相対論的電子の挙動を、1920年代に説明した理論科学者にちなんで名づけられました。その後1960年代に、理論科学者は、特殊な二次元格子の中の炭素原子もまたこの挙動を示す電子を持つであろうと予測しました。しかしながら、2人の科学者がそうした二次元シートを鉛筆の芯から何とか分離して、その特性を詳細に研究したのは2004年のことでした。グラフェンと呼ばれるこの二次元の黒鉛は、特殊で制御可能な光学特性、導電特性、機械的特性およびその他の特性を有している材料への新しい研究分野を切り開きました。しかし、広範な用途(特に高速用途)に対してこれらの特性を十分に利用するためには、電子がいかにして極めて短い時間スケールで相互作用するのかをさらによく理解する必要がある、とダニ准教授は考えます。これを解明することが彼のユニットの主要な目標となっており、「我々は、電子がどのようにして極めて短い時間スケールで互いに応答し合い、その応答がどのような新規の特性を伴っているのかを解明したいと考えています」と、ダニ教授は語っています。

(ショーナ・ウィリアムズ)

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