毒気のある話:ヘビ毒の物語を解き明かす

生態・進化学ユニットのアレキサンダー・ミケェエブ准教授と彼の共同研究者であるスティーブン・エアード教授は、このヘビ毒について研究を行っています。

 OIST の建物やキャンパスからの海の眺望に比べるとはるかにインパクトは小さいものの、OISTを訪れる人の注意をしばしば引くのが、正面玄関近くの「ハブに注意」という小さな看板です。薄黄色または茶色の夜行性のこのヘビは、沖縄では悪名高く、かつて島では、ハブに咬まれて毎年何百人もの命が奪われました。しかし、ヘビにとってヒトを殺すことが第一の目的であったことは一度もありません。ハブの毒は、他の毒ヘビの毒と同じように、できるだけ素早く獲物の動きを止めるために完成した複雑な混合物、いわば毒のカクテルです。この毒のカクテルの働き、またハブの種類によって異なる主な獲物に対して、毒がどのようにして最適化されたかについては、未だに多くの謎が残っています。OIST生態・進化学ユニットのアレキサンダー・ミケェエブ准教授と彼の共同研究者であるスティーブン・エアード教授は、このヘビ毒について研究を行っています。

 メリーランド州立大学沖縄校で教鞭をとるエアード教授がヘビ毒の化学的性質に初めて興味を持ったのは、修士課程の学生としてアリゾナ州でガラガラヘビの野外調査をしていた時でした。捕獲したガラガラヘビに餌を与えていたとき、同教授はマウスに対するヘビ毒の作用が、ヘビの種類によって全く異なることに気付きました。そして、ヘビ毒の化学的性質に関して発表された論文をほとんど読み終えると、今度は自分自身で研究することにしました。OISTでのエアード教授の研究はミケェエブ准教授と出会ったことで始まりました。二人には共通の研究対象があるだけでなく、OISTヘビ毒の遺伝学的性質について大量データ解析するのに必要な機器もが備わっていたのです。

 共同研究では、いずれも沖縄原産で遠縁の毒ヘビであるホンハブとヒメハブに注目し、毒腺に存在するどの遺伝子が活発にタンパク質を合成するのかを調べました。二人はホンハブとヒメハブの活性遺伝子を分類し、これらの遺伝子を、毒液中に実際に存在するタンパク質の型と量とで比較しました。そこから得たデータは宝の山であり、例えば・・・

·      ハブの毒は、その場で獲物の動きを止めて消化を開始するが、それはいかに正確に達成されるのか?

·      ヘビの一生において毒の組成はどのように変化するのか?(ほとんどの種では、成長に合わせて獲物は小さい物から大きな物に変わり、ヘビ毒もそれに従って変化します。ホンハブではこのような変化がみられますが、ヒメハブでは変化がみられません。エアード教授はこの仕組みについて研究したいと考えています。)

·      ハブ毒には未知のタンパク質が潜んでいるのか?もしそうなら、その機能はどのようなものなのか?そしてこの物質が人間の役に立つ可能性はあるのか?ミケェエブ准教授は「ハブ毒の知られざるタンパク質が単に危険だというだけでなく、価値ある生物学的資源としての可能性を秘めていることを示したい」と述べています。

·      種によって異なる主な獲物に対する毒性を最も強くするために、ヘビ毒はどのようにして化学的にテーラーメイドされているのか? など、今後二人が様々な疑問に答える際に役立ちます。

 データ集積だけでは足らず、エアード 教授とミケェエブ准教授は異なるヘビの毒を比較する研究プロジェクトを近々開始し、ヘビ毒の進化図を打ち立てる予定です。「掘り下げるべき研究対象について、私たちは表面を削る段階にすら到達していないのです。」と、エアード教授は語っています。

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