外村彰教授を偲んで

外村彰教授は、活動的で創造力にあふれる方でした。同教授の他界は、沖縄科学技術大学院大学の教職員、そして全科学界にとって大きな悲しみです。


外村彰教授(1942-2012)

 沖縄科学技術大学院大学の教授(アジャンクト)であり、電子顕微鏡ユニットを率いてきた外村彰教授が5月2日逝去いたしました。悲報に接し、心から追悼の意を表したいと存じます。外村教授は、株式会社日立製作所中央研究所のフェローとして、また独立行政法人理化学研究所単量子操作研究グループのグループディレクター、FIRSTプロジェクト「原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡の開発とその応用」の主任研究員としてご活躍されていました。同教授の告別式は、国内外の科学界からの多くの参列者のもと、5月12日に東京で執り行われました。本学からも学長特別顧問の菅原寛孝教授、学園評議員の小林誠博士、そして私ロバート・バックマンが参列致しました。

 外村教授は、日立製作所中央研究所における長年の研究において、電子ホログラフィーおよび磁気ナノドメインの分析における多くの重要な発見の功績を残され、技術の進歩に貢献されました。同教授の干渉性電解放出型電子源の開発は、非常に正確な電子位相シフトの測定および磁力線の直接観察を可能にする電子ホログラフィー・イメージングを実現しました。その結果、アハラノフ・ボーム効果を実験により実証することに成功しました。外村教授はその優れた研究において、他の電子が存在する状態でなくても、単一の電子が干渉縞を構築することを実証しました。また、熟練した日立エンジニアリングチームのメンバーと共に、それまで実現しなかった電子線輝度と格子分解能を備えた1 MVの電界放出電子顕微鏡を開発されました。それは、高温超伝導体中の捕獲・非捕獲磁気渦線の観察、またその他の重要なナノスケール観察を可能にしました。

 2005年の独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構の発足時には、外村教授は「先行的研究プロジェクト」における4人の主任研究員のうちの1人に選ばれました。このプロジェクトにおいて同教授は、以前の装置開発で得た最高水準のフレネルとホログラフィーモードの観察を達成するための技術を組み込み、新しいタイプの300 kVの透過型電子顕微鏡を設計・構築しました。ローレンツ・レンズ配置を初めて導入したことで、磁場を印加する際、大規模な領域でその方角と振幅を変えることができ、かつ試料温度を極低温までコントロールすることができる特別な無電界試料室の構築を可能にしました。これは、正確に抑制された印加磁場のもとでナノ規模の試料を物理的に計測することができる「ナノ分析室」を意味します。

 本学の他に類を見ないこの電子顕微鏡は、重要な新しい発見をもたらすことになりました。ガリウム・マンガン砒化物希薄磁性半導体中の磁区構造についてのナノメートル分解能観察は、将来のナノ装置の有望な材料を明らかにしました。双極子結合ニッケルナノ粒子についての観察では、各粒子の磁化および粒子間の電界の強さを示し、またナノ粒子がほぼ0の外部場において閉じた磁化ループを形成するため、従来のSQUID磁力計では観察することができなかった情報を得ることを可能にしました。配置されたナノ粒子のサイズやパターンは、新しい記録装置の設計における潜在的な可能性を知る上で重要な要素となります。

 「鋳型化された」鉄フィルムの研究では、ソフト磁性媒質のドメイン構造は鋳型の形態によって操作できることが発見されました。高解像のホログラフィー測定により、ドメイン境界の特性分析を可能にし、磁壁に沿った磁気渦および磁気反渦の存在を明らかにしました。この研究は、磁区境界の鋳型抑制が、基礎科学の発展ならびにナノ磁性情報技術への応用を実現していくことを示唆します。超微細磁気書き込みヘッドの動的研究では、ナノ加工された対象物の磁化過程中の驚くべき詳細を明らかにしました。このホログラフィーは、幅50 nmの円錐形の先端のドメイン構造を明白に示すことができます。先端形態のドメイン構造の影響、および部分的に磁化された先端中の漂遊磁界の外観などを認識することは、書き込みヘッドの設計とその性能に対し著しい発展をもたらす可能性があります。

 特に印象的な研究としては、沖縄科学技術大学院大学の新しい顕微鏡が、超伝導体中の詳細な磁気渦を特徴づけるために使用され、外村式ローレンツ・イメージによって、超伝導のマトリックスの階層構造に関する予期されなかった微細で豊富な磁気渦のデータを明らかされたことが挙げられます。このローレンツ画像処理の感度により、アブリコソフ、ジョーゼフスンおよびパンケーキ渦の磁束構造の情報を得ることができ、それにより新たに改良された超伝導体あるいはドープされた超伝導体中の動向を解明するための他に類を見ない強力な手法を提供し、理論的・実際的な重要性を備えた結果がもたらされます。

 沖縄科学技術大学院大学の300 kVの顕微鏡の成功に基づいて、新たなFIRSTプロジェクトである独立行政法人理化学研究所の「単量子操作研究グループ」に対し、1 MVの装置を構築するため2010年に資金が提供されました。理化学研究所と日立製作所との共同研究の一環として、沖縄科学技術大学院大学は、FIRSTプロジェクトのために300 kVの顕微鏡を開発材料として提供することに合意しました。その際、研究グループが顕微鏡を利用したい時に利用できることも了解済みでした。さらに沖縄科学技術大学院大学は、独自の300 kVのローレンツ電子顕微鏡を共有資源設備の一部として維持し利用可能にすることを約束いたしました。

 この顕微鏡の主なる特徴は、強誘電性と磁気秩序を発現する、強誘電材料の広い範囲に適用することができることです。特に、電場印加の使用は、超伝導体およびその他の材料に関する理論的・実際的な研究に対し新しい見解を明らかにする可能性を有しています。多くの生体物質が電磁界に呼応しますが、この現象をin situでイメージ化すれば、それらの生体物質の動力学を明らかにすることができます。

 外村教授の業績の全てにおいて、同教授の研究はそれによりもたらされたイメージの美しさと上品さが特徴的でした。それにより多くの主要なジャーナルの表紙を同教授の研究が飾りました。仕事以外では、外村教授は異なる季節の様々な場面の自然を対象に、自身の繊細な感性を取り入れた写真を撮ることで有名でした。外村教授は、活動的で創造力にあふれる方でした。同教授の他界は、沖縄科学技術大学院大学の教職員、そして全科学界にとって大きな悲しみです。心よりご冥福をお祈りいたします。

沖縄科学技術大学院大学上級副学長
ロバート・バックマン

外村教授が代表をつとめた電子顕微鏡ユニットを取り上げたOISTニュース第8号を読む。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

シェア: