OIST研究員が生物学的分岐パターンを特定

葉を落とした木を眺める時、ロバート・シンクレア准教授が思うのは、春の訪れはまだもう少し先ということだけではありません。同教授にとってその木は、自然界のある基本原則を観察する機会でもあります。


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分岐が平面上にある(左)と、三次元に散らばる(右)よりも材料が少なくてすむことを説明するシンクレア准教授


イーワ・キム博士

分岐に係るリソースを最小限を抑えたニューロン(赤・ピンク)、サンゴ(緑)、そして数学モデル(青)の幾何学サンプル。いずれのサンプルも分岐パターンが平面的である。(分岐点とは、2つ以上のものが三角形を成すところを指す。)

 葉を落とした木を眺める時、ロバート・シンクレア准教授が思うのは、春の訪れはまだもう少し先ということだけではありません。同准教授にとってその木は、自然界のある基本原則を観察する機会でもあります。その基本原則とは、生物系における分岐点は平面をなす傾向があるということです。この度、PLoS Computational Biology に掲載された論文で、シンクレア准教授らは、この原則がさまざまな生物系にあてはまることを示し、これを数学的に解き明かしました。

 今回の研究プロジェクトは、かつて計算脳科学ユニットの研究員であったイーワ・キム博士が、数理生物学ユニットのシンクレア准教授に、分岐が平面上にあると、三次元に散らばるよりも、構築、運用、維持に要するリソースの点からみて効率が高いことを数学的に証明できるかどうかを質問したことから始まりました。この質問は一見単純そうでしたが、実際にキム博士、シンクレア准教授、計算脳科学ユニットを率いるエリック・デ・シュッター教授らがこの問題を解くのには数年を要しました。鍵となったのは、前提をいくつか排除して、この問題を簡素化するということでした。例えば、どの枝も同じ太さであるなど、自然界にはありえない前提を取り除きます。さらに、分岐点の角度を予測しようとせずに、平面にあることだけに焦点を絞りました。シンクレア准教授によれば、「全問回答にこだわってはだめ」で、分岐点が平面上にあるようにすれば、生物が任意の領域に最少の材料で展開できることを、計算によって確認することができたそうです。

とは言うものの、この数学的原則が自然界にもあてはまるのでしょうか。これを明らかにするため、研究チームはサンゴとニューロンという全く異なるものの構造を分析しました。その結果、いずれも、分岐点の57~88%が、確かに平面(160~180度)にありました。偶然ではこのような高い割合になりえません。

 この発見により、正常なニューロン分岐のあるべき姿を明確にできることから、この研究をニューロンの異常成長の識別に応用できるとシンクレア准教授は考えています。同教授の次のテーマは、この平面分岐パターンが、クモの巣など他の生物構造にもあてはまるかどうかを検証することにあります。「一見乱雑に見えるものに隠れている秩序を洗い出し、明らかにすることができたのです。」と、シンクレア教授は説明しています。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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