2012-12-07

ネイチャー誌編集者、OISTにて英知の言葉を語る

 21世紀の環境に適応すべく科学が進化するに伴い、科学出版物もまた進化しています。この度、科学誌ネイチャーのシニア・エディターであるマグダレーナ・スキッパー博士が沖縄科学技術大学院大学(OIST)で2度にわたって講演を行いました。「活字は死んだ」という言葉がスキッパー博士の口から飛び出したのは、2012年12月3日の「科学出版物の未来」と題した2度目の講演の最中でした。最初の講演は「ネイチャー誌の舞台裏―編集プロセスを明かす」をテーマに11月30日に行われました。スキッパー博士は最初の講演で、ネイチャー誌の編集者が論文の投稿や査読(ピアレビュー)や掲載をどのように行っているかを中心に詳しく説明しました。一方、2度目の講演では、科学出版物がこれまでどのように変化してきたのか、さらに今後どのように変化していくのかについて語りました。これら2つの講演はOISTの「コロキアム」講演シリーズの一環として行われました。(第1回目第2回目のコロキアム講演)

 11月30日の講演では、スキッパー博士は論文提出の際にはよく推敲されたカバーレターを添付することが重要であることや、時間を要する査読プロセスの詳細など、数多くのトピックについて言及しました。スキッパー博士によると、査読者から回答を得るまでに時間がかかることが遅延の原因となっていることが多く、「7日から10日以内にコメントを送ってもらうようお願いしても、回答まで2カ月もかかるケースもあります。」と説明しました。また、スキッパー博士はネイチャー誌が論文の著者と査読者がお互いを知らないまま査読を行うダブル・ブラインド法を採用しない理由について、明確な理由がないことを述べた上で、「過去に検討したことがあり、近い将来、再び試験的に実施することを検討しています。」と語りました。

 実際、2つの講演後に行われた質疑応答の時間でも、査読に議論が集中しました。スキッパー博士は PLoS ONE や PeerJ のような他の学術誌が、ネイチャー誌とは異なる掲載方法や査読方法を行っていることを認めた上で、査読が欠かせないのは間違いない、と主張しました。同博士によると、査読には「科学界の専門家集団から得られる信頼性」を確保できる一方で、「保守勢力と受け取られかねない」こともあるそうです。研究者の中には知らない人もいるかもしれないこととして、スキッパー博士は「ネイチャー誌のほとんどの同僚も自身も、比較的研究歴が浅い査読者を好みます。なぜなら彼らの方が実際の研究に近いところにいるからです。」と明かしました。また、ネイチャー誌の編集者たちは提出された論文にさっと目を通すだけなのかとの質問に対して、同博士は「すべての論文を精読します。私たちは最高の論文を掲載したいのです。」と答えました。

 スキッパー博士はネイチャー誌で遺伝学、ゲノミクス、遺伝子治療、バイオテクノロジー、分子進化の分野の論文審査を担当しています。OISTマリンゲノミックスユニットを率いる佐藤矩行教授は、同教授の研究グループが昨夏、サンゴのゲノムを世界で初めて解読し、この研究論文がネイチャー誌に掲載された際にスキッパー博士とやりとりをを行いました。同教授は「査読プロセスは容易ではありませんでした。論文が正式に受理されるまでの1年間に3度も改訂しなければなりませんでしたから。しかし、掲載された私たちの論文は当初よりはるかに優れたものになっていました。」と当時をふりかえりました。スキッパー博士によると、研究者と共同して作業を行うとこうしたことがよく起きるそうです。

 1869年にネイチャー誌が創刊されて以来、150年近くが経ちました。スキッパー博士によると、同誌は創刊以来ずっと「独創的かつ重要、学際的、時宜にかなっており、入手しやすく、洗練されていて驚くべき」科学論文の掲載を目指す学術誌であり続けています。しかし、出版の形態が創刊当時から変わることは避けられません。スキッパー博士は2度目の講演で、研究論文は「一方向的な」ハードコピーの出版物から、ウェブ上の「ダイナミック」かつ「インタラクティブ」な産物に進化したと説明しました。スキッパー博士は「インターネットのおかげで、論文を最新のものに改訂したり、ソーシャル・メディアで共有したり、科学界でどのように議論されているかをチェックしたり、論文の図にインタラクティブ機能を活用することでより深く理解することができるようになりました。弊誌ではこのような新しい出版スタイルを『研究の生態系』と呼んでいます。なぜなら今日では1つの論文に付随する事があまりにも多いからです」と話しています。

 スキッパー博士はOISTについて、「複数の分野にまたがる研究が重点的に行われていることと、研究環境がすばらしいことが印象的です。2つの講演で受けた質問の質の高さからも、OISTには議論が活発に行われている校風があると感じました。」と述べました。

(ヴァネッサ・シパニ)

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