2012-11-12

新研究ユニットの紹介:病原体をノックアウト

 米国フロリダ州マイアミ大学で充実したポスドク研究生活を送り、フロリダの温暖な気候に慣れ親しんだ石川裕規准教授。この新進気鋭の免疫学者にとってOISTの教員ポジションに応募し、オファーを受け入れることはそれほど難しくはありませんでした。とはいえ、沖縄の青い空と海風だけが、彼を本学に引き寄せたわけではありません。「OISTが学際的研究を強く奨励している点が、他の研究機関よりもここで仕事がしたいと強く感じた理由です。自分の専門分野以外の研究者たちと一緒に仕事をするチャンスを得たことに、胸が躍ります。」と、OIST免疫シグナルユニットを率いる同准教授は語ってくれました。

 OISTに着任してまだ2ヵ月。石川准教授は研究室の立ち上げで忙しい日々を送っています。11月中旬に沖縄県出身の技術員が研究グループに加わり、来年1月にはヨーロッパからのポスドクを迎え入れる予定です。すでに数々の輝かしい研究成果をあげている石川准教授はまだ35歳で、「日本の若手研究者にすれば、この歳で自分の研究室を持って独立することは非常に難しいことです。」と本人は言います。「通常、このような機会に恵まれるまでに、長い間、先輩教授のもとで働かなければなりません。」

 免疫学者としての石川准教授は、モデル生物としてマウスを使用し、細菌・真菌・ウイルスなどの病原体から私たちの身体がどのように自分自身を守るのかを研究しています。すべての動物・植物は、何らかの形で非特異的な自然免疫系を持っています。これは生命体にとって感染や疾病に対抗するための最初の直接的な武器と言えます。この自然免疫系は、獲得免疫系より進化的に古いと考えられています。後者の獲得免疫系は、4億5,000万年以上前に最初の有顎脊椎動物で進化したと考えられている特異的な防御システムです。

 自然免疫系とは異なり、獲得免疫系の細胞は、生命体が以前に曝露した病原体を認識し記憶することができます。獲得免疫細胞の優れた記憶力があるからこそ、動物や植物は一定の病気に対して生涯の免疫を獲得できるのです。獲得免疫系のおかげで、たとえば、一度罹った水ぼうそう(水痘ウイルス)に再び罹りにくくなりますし、水痘ワクチンの発達で一度も罹らなくて済むようにもなりました。このワクチンの大原則は、生命体を少量の病原体に曝露させることで、この先さらに強い感染に対して強力な攻撃を仕掛ける方法を獲得免疫細胞に学習させることなのです。最初に病原体に反応するのは必ず自然免疫系で、これが獲得免疫系を活性化させます。両者がペアとして働いて初めて、免疫系は身体を守ることができるのです。

 マイアミ大学での石川准教授は、指導教授のグレン・バーバー(Glen Barber)博士と共に、自然免疫系の分子的機構に関して重要な発見をし、その論文は2008年と2009年の2回、科学雑誌Natureに掲載されています。使用したのは科学者たちが「ノックアウト」マウスと呼ぶ、遺伝子操作によって特定の遺伝子を欠失させたマウスです。石川准教授とBarber教授は、STING(インターフェロン遺伝子刺激因子)と名付けられた、細菌やDNAウイルス(ヘルペスウイルスなど)に対する免疫細胞の反応を制御する重要な遺伝子を同定したのです。彼らは、STINGを欠失したノックアウトマウスでは、自然免疫系全体がこれら病原体から自らを防御する力を失うことを発見しました。最弱レベルの感染に対してすら、死に至るような高い感受性を示したのです。

 OISTでの石川准教授は、自然免疫系によって獲得免疫系がどのように活性化されるのかを把握することに重点を置いています。また、獲得免疫系の免疫細胞がどのように病原体を記憶するかについても研究したいと考えています。同准教授の研究目標は免疫システムの分子機構を解明することであり、より長期間病原体から個人を防御できる効率的なワクチンの開発に役立つと期待されています。

(ヴァネッサ・シパニ)

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