ゴミを取り除く:何を残して何を捨てるべきか、細胞はどのように決めているのだろうか

細胞は体からの要求に応答するために、常に特定の遺伝子のスイッチを入れたり切ったりしています。そのスイッチの切り替えは、細胞がRNAと呼ばれる遺伝子のコピーを作成するプロセスを開始または停止することに相当します。

 細胞は体からの要求に応答するために、常に特定の遺伝子のスイッチを入れたり切ったりしています。そのスイッチの切り替えは、細胞がRNAと呼ばれる遺伝子のコピーを作成するプロセスを開始または停止することに相当します。タンパク質を製造する装置がその「転写産物」を読みとり、その遺伝子に対応した最終産物を作ります。

 しかし、遺伝子のスイッチを適切かつ完全に切るには、遺伝子コピーであるRNAの作成を単純に停止するだけでは十分とはいえません。すでに存在しているRNA転写産物を分解して、最終産物であるタンパク質の合成を中断する必要があります。このプロセスが失敗すると、重大な影響が生じ、時に死にいたることさえあります。細胞シグナルユニットは、廃棄すべき転写産物とまだ必要な転写産物を、細胞がどのように区別しているかについて研究しています。

 このプロセスのカギとなるのはCCR4-NOTと呼ばれるタンパク質の複合体です。この複合体は、まだ解明されていないメカニズムにより、特定のRNA転写産物を選び出し、さらに他のタンパク質と共同で、タンパク質合成を中断するプロセスを開始します。細胞シグナルユニットは、複合体の各構成成分が何を行っているのか明らかにするために、それらタンパク質の遺伝子をひとつひとつノックアウトしたマウスを使って、その影響について調べています。ほとんどの場合に劇的な影響が現れ、マウスの胚死亡や不妊が引き起こされます。一方、複合体の構成成分であるCNOT3の遺伝子のペアのうち片方だけをノックアウトした場合、マウスは何を食べても痩せ型に保たれることが分かりました。細胞シグナルユニットを率いる山本雅教授は、この発見からダイエット用の薬の可能性が示唆されると語ります。

 もっとも、この発見は細胞シグナルユニットにとって単なる「おまけ」に過ぎません。同ユニットが関心を持っているのは、細胞がその内部で、または外界とコミュニケーションするために利用している、化学的なシステムの多種多様な構成要素です。例えば、CCR4-NOTのタンパク質群はTOBと呼ばれるタンパク質とともにRNA転写産物を分解しますが、TOBの活性は細胞表面に存在するタンパク質のファミリーによって制御されており、それらは細胞外からのシグナルに応答して活性を変化させます。細胞シグナルユニットでは、このシステムをはじめ神経可塑性やエネルギー代謝システムの研究を通じて「生存していくために、外界の環境に対して私達生物はどのように応答しているのか」の理解を深めることを目指していると山本教授は説明します。

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