2011-06-02

ゲノム研究における定量解析の最先端

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 現在OISTでは、世界16カ国から集まった30名の若手研究者、大学院学生が参加して国際ワークショップ「定量的進化と比較ゲノム」を開催しています。3週間にわたる本ワークショップでは、気鋭の講師17名による講義と、6名のチューターによるチュートリアルがおこなわれ、生物学系と計算科学系の参加者それぞれが、統計学やコンピュータ解析、そして実験をゲノム分野に応用する最先端の研究分野について学んでいます。ここ沖縄で学んだことが参加者の皆さんの今後の研究に役立つことが期待されます。

 オーガナイザーをつとめる物理生物学ユニット代表研究者のジョナサン・ミラー博士は、「本コースは、統計学や物理学、数学、コンピュータ解析、実験などを組み入れた計算ゲノム科学の最先端について教えています。ある講義では、人類の長い歴史の中で人々がどのように移動してきたかを、ヒトゲノムを解析することで明らかにすることが紹介されました。また別の講義では、バクテリアがどのようにゲノム情報を交換しているかを定量的かつ物理学的手法によって調べる研究について発表されました。」と語っています。

 ゲノム科学とは、ある生物がもつ遺伝情報について研究する遺伝学の一分野のことです。1998年に最初の動物として線虫の一種であるC. elegansの全ゲノムがOIST理事長のシドニー・ブレナー博士などによって解読されました。それ以来、動物ゲノムの解読はショウジョウバエ、ヒト、フグ、マウス、ラットと進み、現在では40種以上の動物のゲノムが解読され、論文公表されています。このように多数の動物の全ゲノムが解読されて以降は、生物の研究にコンピュータ解析の手法を用いることがますます重要になっています。

  先にミラー博士が紹介した講義では、オックスフォード大学(英国)のサイモン・マイヤー博士が、ヒトゲノム情報を利用することでヒトの地球規模の集団構成について推測できることを紹介しました。歴史上、人々はある場所から別の場所への移動を繰り返し、その結果、出身の異なる人々が交わる混成集団が形成されました。この混成について調べるため、マイヤー博士の研究グループは、血縁関係にないアフリカ系アメリカ人およそ3万人の遺伝情報をもとに「リコンビネーション(組み替え)マップ」と称するものを作成しました。その結果、西アフリカ人を先祖にもつ人々には見られる一方で、欧州人には全く見られない、ゲノム中の「リコンビネーション(組み替え)ホットスポット」とも呼べる場所を3千カ所以上発見、抽出することに成功しました。実はこれらのホットスポットは、ミラー博士が25年以上前に世界に先駆けて発見したDNA結合構造をもつジンクフィンガーというドメインを9個もつタンパクによって認識されることが明らかとなりました。

 ロシア出身で農業生物資源研究所(茨城県つくば市)研究員のオレグ・グセフ博士は、「OISTでのワークショップやコースに参加するのはこれが3回目です。OIST主催のこうしたコースは、日頃実験をしている研究者と理論系の研究者が一堂に会するユニークなプログラムとなっていて素晴らしいと思います。数週間にわたって開催されるので参加者はテーマとなる分野について深く学ぶことが出来ますし、受け身で講義を聴講するのではなく、その分野を代表する研究者と話をする機会もあります。また、ポスターセッションでは日頃の自分の研究について発表し、こうした機会を通じて他の参加者と交流することができます。」と感想を寄せてくれました。

 総合研究大学院大学の大学院生で、国立遺伝学研究所(静岡県三島市)で研究に従事する高橋明大さんは、「私はいわゆる生物学の『実験屋』で、発芽酵母について調べています。バイオインフォマティックスに関する知識を広げようとこのコースに応募しました。プログラムそのものもそうですが、他の参加者とのネットワーク作りも大いに楽しんでいます。」と話していました。

 また、オックスフォード大学・人類遺伝学ウエルカム・センターで博士号取得をめざすアンジャリ・グプタ・ヒンチさんからは、「普段は数学的手法を用いて生物学について勉強しています。このワークショップに参加して、様々な分野の専門家の講義を聴いたり、それぞれが違うことを研究している学生と知り合う機会に恵まれたことに感謝しています。沖縄滞在中の私のルームメイトは中国から参加していて、雲南省の植物園で植物のゲノムについて研究しているバイオインフォマティックス博士課程所属の学生です。」とのコメントをいただきました。

 本ワークショップは、ミラー博士の他、OIST生態・進化学ユニット若手代表研究者のアレクサンダー・ミケェエブ博士、オックスフォード大学のジリアン・マクヴィーン博士がオーガナイザーをつとめています。本ワークショップの詳細はOISTホームページでご覧いただけます。

(名取 薫)

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