世界一精緻なフィッシュタンク

 

魚を飼ったことがある方なら誰でも魚が病気にならずに成長するにはどれだけ手がかかるか経験したことがあるはずです。水質や室温は一定に保たれなければなりませんし、餌も決まった量を定期的にやる必要があります。

OISTにはゼブラフィッシュの突然変異体及びトランスジェニックフィッシュ(遺伝子機能研究に欠かせない遺伝子を導入した魚のこと)を育てるための最新式の飼育施設があります。同施設内には4,600の水槽があり、その中には常に40万ものゼブラフィッシュが泳いでいます。政井一郎博士が代表をつとめる神経発生ユニットでは、このゼブラフィッシュを用いて魚の網膜の発生メカニズムについて研究しています。

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OISTの水槽施設に初めてゼブラフィッシュを入れた日に撮影。ユニットのメンバーとセットアップに携わった業者のスタッフとともに。

 

ゼブラフィッシュ飼育施設の維持・管理は、熱帯魚用の巨大な水槽を扱うのと似ています。施設は大きく分けて二つからなり、一つが魚を繁殖させ、育てるための水槽がある飼育エリアで、もう一つが水循環用の高度な設備が備わったポンプ室です。魚から排泄される有害物質を分解するために、熱帯魚の水槽では底に砂利を敷きますが、OISTのゼブラフィッシュ飼育施設では、代わりに何層もの水フィルターが設置されています。水フィルターはメカニカルフィルターとバイオロジカルフィルターの二種類があり、前者は細かいゴミを取り除きます。後者は陶器かプラスチック製のチップでできていて、櫓材には、アンモニアを亜硝酸塩に変え、亜硝酸塩を硝酸塩に変えることで毒性の高いアンモニアと亜硝酸塩を分解・除去する硝化細菌が付着しています。水は無毒化されるまでこれらのフィルターで何度もろ過されます。

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水だめに設置された陶器製フィルターを見せる政井博士

ろ過された水は隣のポンプ室に送られ、ここで再びメカニカルフィルターとバイオロジカルフィルターを通るとともに、ポンプ室では水の殺菌と、魚の飼育に適した水が作られます。殺菌は、UVランプが中に入ったパイプの中を水が通ることで病気を引き起こす細菌を殺菌する仕組みになっています。殺菌灯のUV放出量や液中の水素イオン指数(pH値)、電導率やポンプの出力などは、すべて壁に備え付けられたタッチパネル方式のコントローラーで自動制御されています。また、ポンプ室では、脱イオン化水にアルカリと人工海水を混ぜ合わせて飼育用の水を作り、全体の10パーセントの水が毎日入れ替わるようにしています。この10パーセントの入れ替えが硝酸塩の増加をおさえるのに重要となります。

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ポンプ室
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チップ製のバイオロジカルフィルター

タッチパネル製の制御システム

餌やりもこの複雑なシステムの大事な要素です。餌をやり過ぎると水槽内にアンモニアが余計に発生してしまうため、ユニットのメンバーは餌の量と餌やりのタイミングに注意をはらうとともに、毎日新鮮な餌を用意します。餌は、米国ユタ州のソルトレイクから乾燥した状態で取り寄せたブラインシュリンプ(エビの一種)の卵を孵化させて使用します。

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ブラインシュリンプの乾燥卵 飼育水に食塩と乾燥卵を入れて孵化させる

個々の魚について、生まれた日、遺伝情報、過去と現在の健康状態など、その詳細な系統の記録を残すこともゼブラフィッシュ飼育施設の維持には欠かせません。OISTでは100もの野生型、突然変異体及びトランスジェニック系統を所有しており、国内外のゼブラフィッシュ研究者へ系統を配付するバイオリソースプロジェクトにも貢献しています。

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飼育録

OISTのゼブラフィッシュは世界で最も大切に育てられている魚たちであるに違いありません。こうした厳格かつ精密な飼育の結果が、最終的にはゼブラフィッシュの網膜の発生メカニズムの研究上の理解へつながるのだといえます。

(名取 薫)

研究ユニット

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