2010-06-29

北野宏明博士の研究論文が Molecular Systems Biology に掲載されました

OIST代表研究者 北野宏明博士 現代投資理論を生物学に融合した理論を構築 

 

この度、沖縄科学技術研究基盤整備機構オープンバイオロジーユニット代表研究者の北野宏明博士は、生物学上の謎を解明するために、生物学とは一見かけ離れているように思われる現代投資理論の一部であるポートフォリオ選択の理論を発展させ、生物学に融合した理論を構築しました。この研究成果は最新号の Molecular Systems Biology に掲載されました。 

現代投資理論で使われるポートフォリオ選択では、複数の投資オプションを組み合わせることによって投資のリスクを低減させる方法が開示されています。具体的には、一般的に期待リターン(収益)の高い金融商品は高いリスクを伴い、収益の低い金融商品はリスクも少ないため、期待リターンとリスクとの間にはトレードオフが存在すると考えられています。 

生物の世界でも同様にトレードオフが存在します。例えば、生物は環境や遺伝的変異等の擾乱に対応する能力であるロバストネス(頑健性)と増殖速度やバイオマス産生効率などの間にトレードオフがあると考えられます。つまり、ある環境下で非常に大きな増殖速度を達成することができる細胞や微生物は、環境の変化に対しては非常に脆弱であるということを意味します。生物においては、この頑健性と増殖速度やバイオマス産生などの効率の関係は、遺伝的要因等で規定されており、進化を通じて変化します。しかし、細胞培養や微生物集団などが進化する過程で、頑健性と効率の関係がどのように変化するのかは、必ずしも明らかでは有りませんでした。 

この生物学的な頑健性は、生命システムを理解するには非常に重要な概念であり、内在的トレードオフは、頑健性、脆弱性、効率等が含まれますが、このようなトレードオフが、常時顕在化しているのか、ある条件下においてのみ顕在化するのかはまだよく理解されていません。 

本論文で、北野博士は、生物学的頑健性に関わるトレードオフが、十分に最適化したシステムにおいて顕在化する現象であり、最適化の余地が残るシステムでは、必ずしも顕在化されないという理論を展開しています。つまり、細胞や微生物集団の継代培養では、培養の過程でその環境に即した進化的選択が加わります。その中でも十分に環境に適応していない集団では、頑健性と効率が同時に改善することがあり得ますが、最適化が進むと、トレードオフにより集団の頑健性が損なわれるという現象があることを説明しています。 

さらにこの理論は、この過程で、どのような遺伝子に変異が生じうるか、また、創薬などのスクリーニングや幹細胞誘導等の細胞培養過程にまつわる潜在的な問題点も予測しています。今回の北野博士の論文で、投資理論を生物学に応用する道が開けたと言えます。

 

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