第8期生入学式典学長式辞

 新入生の皆さん、本日は入学式典にご出席くださりありがとうございます。皆さんのOISTでの研究が、人類の未来をつくります。地球上の生命の本質、そして地球外のそれも、皆さんに託されているのです。

 それは、重責の伴う大変な仕事と言っても過言ではないでしょう。テクノロジーは史上かつてないほどの大変革を迎えており、我々人類に大きな影響を与えています。この世界が非常に速いスピードで変化していく様子を、著名な歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリ博士は、著書「サピエンス史:文明の構造と人類の幸福」の中で、次のように表現しています。「現代の人類は、ネアンデルタール人やチンパンジーと似て非なるものです。それと同じように、100年から200年後の人類も、現代の私たちとは似て非なる人類となっているでしょう」と。

 ハラリ博士は、劇的な効果を狙って少し大げさに言っただけだとお思いでしょうか。しかしこれから先、人類であることの意味が変わっていくでしょう。変革をもたらす数々のテクノロジーがすでに、パラダイムシフトを引き起こしています。医療は解剖的アプローチから、因果性アプローチへとシフトし、今後10年で医療を大きく変え、人間とは何かという問いに大きな影響を与えるでしょう。

 人工知能と最新のロボット工学により、労働市場は激変し、人間の意義を試す時代がやってくるでしょう。デジタル・テクノロジーは多くの恩恵をもたらす一方で、量子コンピュータの発展に伴い、サイバーセキュリティの脅威に対するぜい弱性が、より大きな問題となってくるでしょう。

 これらのテクノロジーは、プライバシーや人権の問題と密接につながっています。一部の国ではすでに、人工知能や顔認証システムを使った監視体制を導入していますが、プラスとマイナスの影響があるようです。今日の最新テクノロジーの、法律的、道徳的、倫理的意味を無視したら、未来は一体どうなるでしょうか。

 激変する世界は、深刻な問題に直面しています。気候変動、エネルギーや安全な飲料水の提供、世界的な人口移動、拡大する都市化などです。これらの複雑な問題の解決には、世界中のあらゆるセクターの協力と専門知識の集結が不可欠です。学際的な基礎研究こそが問題解決のキーであり、OISTはその学際的な研究を提供できる類まれな大学です。

 OISTのような特徴ある大学で研究するチャンスや、新しい大学を一から作り上げるチャンスには滅多に巡り合うことができません。これほどの短期間で急成長する大学にもまた、滅多に巡り合うものではありません。ここまでOISTは順調に成長してきました。それは学外の機関も証明しています。例えば、ネイチャーインデックスのランキングでは、質の高い論文率でOISTは国内トップ、世界で9位にランクインしました。これはまぐれの結果ではありません。OISTはまさに、世界トップレベルの大学をつくるという理念の元に設立されたのです。

 私が以前務めていたドイツのマックスプランクと同じように、OISTは研究ユニットにハイトラストファンドという形で研究資金を提供しています。主にメインストリームの研究が採択される競争的研究資金とは違い、本学では、研究者たちにリスクを取って独創的な研究をするよう奨励し、研究資金を提供しています。

 私はいつも言っています。「研究プロジェクトではなく、研究者に資金を付けるべきだ」と。これにより卓越性を生むことができるのです。全ての大学には設立の目的があります。OISTの目的は、沖縄、日本、世界に卓越した研究、教育、技術移転をもたらすことです。この目的に基づいて、優秀で聡明、独創的な学生や研究者、教員、職員のみを採用してきました。

 本学への国際的な評価が高まる中、教員の枠に対する応募者数も年々増えています。昨年だけでも、10名の教員のポジションに対して、1,500名以上の応募がありました。学生の入学希望者に関しても、900名以上の願書の中から選び抜かれた46名が、今日この場に集っているわけです。世界中から、また、名だたる研究機関から、OISTに応募してきてくれた中で、ベストな人材だけを選抜しました。皆さんをOISTに迎えることができたことを、私は誇りに思います。しかし、皆さんの旅路、そして新しい大学としての旅路に、私たちが期待することも大きいということを知っていてください。

 今日から旅路を歩き始める皆さんに、私からのアドバイスを「5つのC」としてお伝えしたいと思います。

  1. 「curious」好奇心を持つこと。アルバート・アインシュタインは言いました。「私には特別な才能はない。あるのは情熱的な好奇心だけだ」と。
  2. 「creative」独創性を持つこと。独創性とは、価値のある独自のアイデアをつくる過程を言います。
  3. 「courageous」勇気を持つこと。多くの人が選ぶ道を歩いてはいけません。
  4. 「critical」批判精神を持つこと。自分自身に対して、研究に対して、スタッフに対して、凡庸な成果で良しとしてはいけません。
  5. 「complete」完結すること。研究を最後まで終わらせ、論文を書き上げて、次の研究に向かうのです。

 OISTの素晴らしいところは、小規模な大学であるがゆえに、教員や上級職員でなくても、誰でも招聘した科学者たちと話をすることができることです。ノーベル賞受賞者や、研究分野でトップの科学者たちと学生が関わることができる、挨拶するだけでなく、アイデアを共有したり、質問したりすることができる。そのような機会を頻繁に提供できる大学は、そう多くはありません。

 OISTが提供するものを最大限に活用してください。本学は他ではできないことを皆さんに提供することがきます。例えば、毎月、学長主催講演会を開催し、著名な科学者を招聘しています。ノーベル賞受賞者や、世界的な科学者、今日最も影響力のある研究者たちが本学を訪れます。特別ワークショップやイベントにも、ベン・フェリンハ博士、スティーブン・チュー博士、ポール・ナース博士、クリスティアーネ・ニュスライン・フォルハルト博士などのノーベル賞受賞者や、古遺伝学の父と呼ばれるスバンテ・ペーボ博士など、高名な講演者を招聘しています。

 皆さんには、この類まれな幸運を最大限に活かしていただきたいと思います。そうすることで、自分の研究や世界への理解も深まるはずです。卓越した科学というのは、分断ではなく、強いネットワークから生まれます。科学のブレークスルーは、分野の境界線で起こります。

 本学は小規模ゆえに研究者同士の強固なネットワークの構築が可能です。独創的な研究者はみな、優秀な仲間とのつながりを持っているものです。今、自分の前後左右を見てみてください。ここで出会う仲間はおそらく、生涯ずっと素晴らしいことをやり続ける人たちです。第8期生の皆さん、比類のないエネルギーと熱意を持ち、学際的な教育の場で多くの学びを得てください。第8期生の皆さん、自らが持つ好奇心、洞察への欲求、問い、人や考えにオープンな姿勢で、本学の研究者たちや、本学を訪れる高名な科学者たちを感心させるのです。

 これから多くの講演会で、皆さんに会えることを楽しみにしています。OISTはすでに科学の卓越性を生んでいます。しかし、本学の創設者たちが目指した世界トップレベルの大学になるためには、毎日卓越性を生み続けなければなりません。

 大学の職員、新入生の皆さん、研究者、私たち全員が、もっと高みを目指せるはずです。私たちは科学的な成果を出し、沖縄の持続的発展に貢献することができます。いくつか方法はありますが、最も重要なことはもちろん、研究を通して貢献することです。OISTでは、沖縄の発展に直接貢献できるような研究がすでに多く行われています。沖縄文化の保存や、ヒアリ防除、サンゴ礁の保全などです。最近では、新竹積教授のチームが開発した、波力発電機のプロトタイプを、恩納村瀬良垣沖に設置しました。

 私はこれらのプロジェクトを大変誇りに思っています。皆さんにも、自分の研究が応用できるのであれば、どんな可能性が生まれるかを常に考えられる研究者になっていただきたい。研究資金を誰が出してくれているかを忘れてはいけません。科学者は、論文を発表し、世の中の問題に解決策を見出すことで世界に還元していると考えますが、それ以外の方法でも貢献しなければなりません。

 沖縄の長期的な発展のためには、教育と地域へのアウトリーチ活動が重要です。今日この場には、最も優秀で卓越した学生や科学者たちが集まっています。後に続く人々を育てることも皆さんの責任です。OISTでは毎年恒例の地域のイベントが多くありますので、皆さんもサポートしてください。皆さん自身も実りある時間を過ごせるはずです。今年10周年を迎えた恩納村・OISTこどもかがく教室、毎年11月に開催するサイエンスフェスタ、離島へのサイエンストリップも定期的に行っています。これらのイベントは、OISTコミュニケーション・広報部の地域連携セクションが担当しており、毎回ボランティアをしてくれる学生を探していますのでよろしくお願いします。

 また学生主導のクラブも、地域に貢献する素晴らしい活動をしています。沖縄サイエンス・メンター・プログラム、ナード・ナイト沖縄、エコクラブなどが様々なイベントやフェスティバルを開催しています。皆さんも少なくとも一つはクラブ活動に参加してみてください。地域へのアウトリーチ活動のクラブを自分で立ち上げ、参加者を集めるのもいいでしょう。地域の人々に科学を教えたいけど、言葉が通じないからと諦めたりしないでください。自分で日本語を勉強したり、日本語が話せる仲間と一緒に活動すればいいのです。OISTでの生活、科学の世界は、一人で努力するものではないのです。

 研究を論文や学会発表で共有すること以外にも、もっと広く世の中に科学を伝えていく責務が私たちにはあるのです。OISTでは、引き続きデジタルサービス及びメディアセクションを拡充していくとともに、政府や産業、世界中の研究機関、そして地域の方々との関係を、ここにいる皆さんと一緒に、さらに深めていきたいと思います。

 本日、コミュニケーション・広報担当副学長にジョナサン・レイさんが就任しました。レイ副学長はBBCでの勤務を経て、オックスフォード大学やキング・アブドラ科学技術大学などの研究大学で、広報部を率いてきました。皆さんの研究や興味のあることをぜひ聞かせてほしと思っているはずです。

 レイ副学長とともに、最近OISTファミリーに加わった2名の副学長を紹介します。人事担当副学長に就任した永瀬智さんは、前職ではIBMのアジアチームを率いていました。組織の運営や開発への深い理解と、雇用や多様性への配慮をもたらし、OISTコミュニティの一人ひとりが、生き生きと研究や仕事に取り組めるように尽力してくださるでしょう。そして今日は残念ながら欠席していますが、柴田政之博士が数か月前に財務担当副学長に任命されました。柴田博士は、直近では東京工業大学で総務・財務担当副学長・事務局長を務めていました。日本の行政機関や海外での経験も豊富で、様々な知見をOISTにもたらしてくれるでしょう。

 そして、細胞シングルユニット主宰者である山本雅教授が、今年4月に研究担当ディーンに就任しました。国内外の研究者や研究機関との幅広いネットワークを持つ山本教授は、研究担当ディーンにまさに適任であります。

 またこの機会に、利害対立の解決を担当するオンブズマンに任命されたジェフ・ウィッケンス教授と、副オンブズマンに任命されたエヴァン・エコノモ准教授をご紹介します。OISTでは、すべての学生と教職員が安心できる環境で働き、疑問や懸念の声をあげることができるように、また誰もが正当に権利を主張して、職場内の問題や紛争の解決を求めることができるように、既存の紛争報告ルートに加えて、オンブズマンを設置しました。

 OISTの運営に関わるすべての教職員が、皆さんの学業と研究の成功をサポートします。私たちにとってやりがいのある仕事です。ここにいる私たち一人ひとりは、皆さんが飛躍し、変化をもたらす研究者となれるような環境を提供します。

 またOISTの重要な使命の一つに、技術移転があります。OISTの首席副学長兼副理事長のロバート・バックマン博士と准副学長のローレン・ハさんが、技術開発イノベーション担当として、科学者が起業するためのトレーニングや教育プログラムの提供に尽力してくれています。目標は技術移転とイノベーションを促進して、沖縄経済を活性化し、ハイテク企業と給与水準の高い仕事を沖縄に呼び込むことです。これには2つのアプローチが必要になります。1つは、OISTの研究の技術移転を支援すること。もう1つは、OISTに有望なスタートアップと既存の産業パートナーを呼び込むことです。

 1つ目はすでに行っています。OISTでは概念実証プログラムがうまくいっており、今日の出席者の中にも、プログラムに関わっている方々がいることでしょう。現在取り組んでいるのは、産業パートナーを呼び込み、OISTにイノベーション・エコシステムを徐々に形成していくことです。そしてOISTで行っていること全てに関係してくるのが、本学の新たな戦略計画で、計画の作成には、ケン・ピーチさんとセシリア・リウさんが携わってくれました。戦略計画は先ほど完成し、本学が今後10年、またその先に達成すべき野心的な目標と、その達成方法を明示しております。

 計画の作成には1年以上を費やし、学生、教員、職員など全員が、タスクフォースという形で参加しました。貢献してくださった皆さんにここでお礼を申し上げます。貴重な時間と労力、アイデアをありがとうございました。戦略計画の完全版は、来月の理事会の後に公表しますので、皆さんもぜひお読みください。今日は計画の重要なポイントだけお話しいたします。

 今から2年後、開学からちょうど10年目の年に、OISTは教員100名体制での教育研究を目指します。それからさらに10年後には、200名体制を目標とします。その時には、現在の職員約1,000名の2倍以上の規模に達するということになります。教員に伴って、研究者、学生、それをサポートする職員数も増えます。また建物、機器、住居、施設の拡充も必要になってきます。

 家族を連れて沖縄に移ってくる教職員も多いですから、ご子息のための適切なK12学校の設立と、保育所の拡充も必要になります。OISTが成長すれば、恩納村、谷茶地区も成長するでしょう。OISTと恩納村はともに成長し、互いの発展を支えあっていきます。学長としての私の責務の一つは、恩納村、沖縄県、日本政府との連携を強め、互いに利することのできる体制を構築していくことです。その実現に向けて、今後も引き続き、村、県、政府に積極的な働きかけを行っていきます。

 OISTから那覇に向かって南下していくと首里城があります。沖縄が琉球王国であった時代、首里城はその中核でした。首里城の中には「万国津梁の鐘」があります。全ての国につながる橋という意味です。当時、沖縄は主要な貿易港として、世界をつないでいました。今日、OISTは世界の国々を科学でつなぎます。周りを見てください。学生、教員、職員は世界中から集まっています。ともに新たな知識とテクノロジーを創造し、世界が直面する難題を解決しようと集まった人々です。

 ルイ・パスツールは言いました。「科学に国境はない。なぜなら知識は人類に属するものであり、世界を照らす灯であるからだ」と。改めて新入生の皆さん、OISTへようこそ。

学校法人沖縄科学技術大学院大学学園理事長、沖縄科学技術大学院大学学長 ピーター・グルース博士
2019年9月3日

OIST ニュースセンター記事「新入生・新教員、そして将来目標を歓迎」(2019年9月4日)を読む。