危機克服に科学の力を

 新型コロナウイルス感染症は世界に壊滅的な影響をもたらした。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「これは健康上の危機だけでなく、雇用危機、人道危機、開発上の危機でもある」と指摘した。人類が今回の危機に、そして将来の危機に対処していくためには何が必要だろうか?

 そう、何よりも科学である。

 各国は、将来の見通しのきかない諸課題に備えるために、科学基盤に投資している。それは、ゆくゆくはパンデミックに限らず、エネルギー危機や、気候破壊、食糧危機、健康危機などのあらゆる危機に対して、さらに高度な科学が適切かつ合理的な対処方法をもたらすことにつながるだろう。素晴らしい科学研究を行うには資金投資が必要であるという事実は認めなければならない。ただ、他国に比較してより多くの投資を行っている国々が、経済的利益を享受していることを示す研究がある。

 一例を挙げると、韓国政府と中国政府はGDPの1%以上、ドイツ政府は約1%を科学に投資ししている。これに比べて日本政府の投資はわずか0.65%である。この数字は、日本のようなハイテクの各国と比較すると、はるかに少ない。結果として、日本にはスタートアップにつながるイノベーションがあまりにも少ない上に、日本のベンチャーキャピタル投資額は米国のわずか3%程度でしかない。

 新型コロナウイルス感染症により私たちが今経験している「新たな日常」は、今後直面する諸問題に対して独創的な解決策を必要としている。それらは、日本経済の真の問題である。科学基盤と技術移転の資金不足、極めて少ないスタートアップと新規株式公開(IPO)。危機によって多くの人々が職を失ったことを鑑みれば、新型コロナ後の経済がパンデミック前と同じであると考えるのは間違っているだろう。

 私たちは、新しい仕事を生み出す必要がある。米国を例として挙げると、米国で生み出されたすべての新しい仕事のおよそ75%は、設立から5年未満の会社、すなわちスタートアップ企業によってもたらされていることがわかっている。日本経済に栄華を取り戻すためには、政府、産業界、そして科学者が協調して努力してくことが求められる。

学校法人沖縄科学技術大学院大学学園理事長、沖縄科学技術大学院大学学長 ピーター・グルース博士

本記事は2020年7月21日に日刊工業新聞に掲載されました。