2026年6月5日
真核生物の進化を支えた種間での遺伝子のやりとり
死んだ生物を分解して、炭素や窒素、リンといった重要な栄養素を生態系に戻す働きを担う分解者は、地球環境の維持に欠かせない存在です。菌類を含むほとんどの分解者は、獲物をそのまま食べるのではなく、周囲に溶け出した栄養素を吸収して生きる「浸透栄養」という方法で生きています。しかし、こうした栄養様式が、真核生物の系統樹全体でどのようにして繰り返し出現したのかは、これまで明らかになっていませんでした。
今回、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、英国オックスフォード大学、スペインのバルセロナ・スーパーコンピューティング・センター、生物医学研究所(IRB Barcelona)、カタルーニャ・オープン大学などの研究チームは、真核生物(複雑な細胞を持つ生物)がどのように浸透栄養へと特化してきたのか、その進化の歴史を再構築しました。その結果、浸透栄養に特化した四つの真核生物グループは、およそ7億2000万年前から10億年前にかけて出現したこと、さらにそれらのグループが、浸透栄養機能に関わる共通の遺伝子群を持っていることが示されました。また、ある生物から別の生物へ遺伝子が移動する「水平遺伝子伝播(Horizontal Gene Transfer: HGT)」が、これらの機能の進化に重要な役割を果たしていた可能性も明らかになりました。
本研究は、学術誌『Nature Ecology & Evolution』に掲載され、生物がどのように進化し、遺伝子がどのように受け継がれていくのかという理解に、新たな視点をもたらすものです。
「これまで水平遺伝子伝播は、主に細菌で見られる特殊な現象と考えられてきました。一方で、真核生物では遺伝子は親から子へと垂直に伝わるとされていました」と、OISTモデルベース進化ゲノミクスユニットを率いるゲルゲイ・ヤーノシュ・ソローシ准教授は説明します。「しかし今回の研究から、真核生物においても、生命の系統樹の枝同士で実際に遺伝物質のやり取りが起きており、そうしたやり取りによって、まったく新しい生き方が成立し得ることを示しました。」
分解者の進化の歴史をひもとく
本研究では、互いに遠い系統に属し、いずれも浸透栄養に特化した4グループに注目し、それぞれの種のゲノムを比較しました。よく知られている菌類(Fungi)に加え、擬菌類(Pseudofungi)、ラビリンチュラ類(Labyrinthulea)、テレトスポレア(Teretosporea)という他の三つの真核生物系統も、それぞれ独立に浸透栄養型の生活へと移行していたことが分かっています。
筆頭著者のEduard Ocaña-Pallarès博士は、「これらのグループは、真核生物の系統樹の中で離れた位置にあるにもかかわらず、糸状のネットワーク構造や丈夫な細胞壁など、浸透栄養生活への適応に関わる多くの特徴を繰り返し獲得してきました」と説明します。Ocaña-Pallarès博士は、かつてOISTソローシ・ユニットでポスドク研究員を務め、現在はカタルーニャ・オープン大学のラモン・イ・カハール研究フェローです。「さらに重要なことに、これらのグループは、栄養の取り込みやイオン調節、同化代謝に関わる遺伝子など、浸透栄養に必要な共通の遺伝子群も共有していました。私たちは、これらの共通の遺伝子がどこから来たのかを明らかにしたいと考えました。」
研究チームが数百の遺伝子系統樹を詳細に解析したところ、これらのグループの間で水平遺伝子移動が起こったと考えられる事例が166件見つかりました。その多くは代謝機能に関わる遺伝子でした。特に、水平遺伝子移動は、菌類と擬菌類の間、そしてラビリンチュラ類とテレトスポレアの間で多く確認されました。
「これらのグループの間には、それぞれ陸上環境と水圏環境という共通の生態的背景があり、そこに『遺伝子移動のハイウェイ』のようなものが存在している可能性があります」とソローシ准教授は指摘します。
残された謎
今後の研究では、これらの共通遺伝子が、各グループの中で実際にどのような機能を果たしているのかを詳しく調べていく必要があります。
また、異なる系統の間で、どのようにして水平遺伝子伝播が起こったのかも、今なお残された謎です。「例えば、環境中のDNAを直接取り込んだのか、それともウイルスなどを介して遺伝子が移動したのか、といった点が挙げられます」とOcaña-Pallarès博士は説明します。「すでに、『真核生物でも水平遺伝子伝播が起こるのか』という問いは乗り越えられています。これからの焦点は、それがどのようにして起こるのかという点にあります。しかし、その仕組みについては、まだほとんど解明されていません。」
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