2020-12-14

「ムーンショット」プロジェクトに関わるOISTの若手研究者

2020年3月に沖縄科学技術大学院大学(OIST)に着任した高橋優樹准教授は、量子情報物理実験ユニットを率いて、イオントラップと呼ばれるデバイスの研究を行っています。高橋准教授は東京大学で量子光学の博士号を取得し、英国でポスドクとして8年間研究を続けた後に帰国。OIST着任直前は、大阪大学で特任研究員を務めていました。

OISTへの応募を決めたことについて、「OISTはとても特別な大学だと感じます。応募したときは、まだキャンパスを訪れたことがなかったので、OISTのことはあまり知りませんでした。でも、OISTについては良いことばかり耳にしていました。将来性がありそうだと思いましたし、研究費面でも魅力的でした。着任が決まる前までは、現在研究費として任されている研究室予算の10分の1もあればいいと思っていました。OISTでは若手でも独立した研究者として、質の高い研究に挑戦できる事を実感しました」と高橋准教授は説明します。

OISTのオフィスでの高橋優樹准教授。

2020年は高橋准教授にとって重要な年となりました。OISTへの着任に加えて、国の大型プロジェクトの一つである国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が行う「ムーンショット型研究開発事業」のプロジェクトマネージャーの一人に採択されたのです。ムーンショット型研究開発事業は、挑戦的な研究プロジェクトを推進するために内閣府が主導するプログラムで、超高齢化社会や気候変動などの地球規模の課題を解決することを目的としています。この度高橋准教授がプロジェクトマネージャーとして採択された「ムーンショット目標6」プロジェクトは、2050年までに経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータの開発を目指すというものです。高橋准教授のプロジェクトでは、より具体的には、誤り耐性量子コンピュータの構築につながるイオントラップ装置の開発を目指しています。

高橋准教授の計画は、量子コンピュータから情報を送信するための基本的なアーキテクチャを構築することで、そのために、物質を構成する小さな粒子である原子を使います。  

「単原子1つの量子物理学を調べる必要があります。通常、物質は数十億の原子でできています。その原子を1つずつ取り出して研究できるようにしたいと考えています。その上で問題となるのは、原子が空中では秒速1キロメートル程の速さで飛び回っているということです」と高橋准教授は説明します。

そこでイオントラップと呼ばれる装置の出番です。これらの装置は原子の動きを鈍らせて空間中に留まらせ、カメラで観察することを可能にします。

「イオントラップ自体は約30年前から存在しており、これまでにかなり発展してきました。量子コンピュータの基本的なハードウェアです。」

高橋准教授は以前にもイオントラップを作った経験がありますが、一度に1つの原子しか捉えることができませんでした。現在は、複数の原子の動きを同時に鈍らせて捉えることを可能にする、より高度なイオントラップの設計を考えています。

イオントラップは、この小さな粒子の動きを減速させて空間中で留まらせ、観察できるようにする。この画像では、ちょうど中心部に原子が見える。

速度が遅くなった原子は、1つ1つ並べることができます。高橋准教授はこれらの原子を、「光子」と連動させます。光子もまた、物理学の基本的な粒子であり、電磁場の波でできています。この連動により、情報を移動可能な形に変換します。 高橋准教授は、それを原子でできたアンテナを作るようなものであると例えました。

高橋准教授の加わるこのムーンショット目標6プロジェクトは、耐性型汎用量子コンピュータを実現するという同一の研究目標を掲げて国内のさまざまな研究機関で行われている合計7つの個別プロジェクトのうちの1つです。OIST量子ダイナミクスユニットのグループリーダーである久保結丸博士も、高橋准教授とは別のプロジェクトで、この目標に沿って研究を進めています。

「このプロジェクトには、基本的に、イオントラップを使った量子物理学を研究している日本中の人が関わっています。これらの技術を改良して、大規模な量子コンピュータにも利用できるようにしたいと考えています。量子コンピュータは数年後に完成するという意見もありますが、私は2050年の方が現実的だと思っています。まだまだ技術的な課題がたくさんあります。各研究機関がそれぞれ1つの課題を調査し、少しずつ異なる設計やアイデアを考案し、最後にその成果を組み合わせて、より完成度の高いものを作り上げる予定です」と高橋准教授は説明します。

高橋准教授は、このような野心的で資金力のあるプログラムに参加できることを喜んでいます。高橋准教授がこの研究で最も気に入っているのは、「DIY」とも言える部分だそうです。「このプロジェクトは、極端な条件下でのDIYのようなものですが、同時に物理学の最先端を探求することでもあります。プロジェクトがあって、少しずつ装置を作って、運が良ければ最終的に新しいものを発見して発表する。すごくcoolなことだと思います!」

(ディッキー・ルシー)

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