親とのコミュニケーションが学習に大切なわけ‐幼鳥が親鳥の唄う歌を学習する脳のしくみを解明

ヒナ鳥が、親が実際に“唄っている歌”を特定し、これを学習するための脳内メカニズムが明らかになりました。

Social connection drives learning in bird brain

コミュニケーションスキルを習得するためには、良い教師(コーチ)を持つことが近道です。

歌を学習する鳥、ソングバードの一種であるキンカチョウは、通常親をコーチとし、親が唄う歌を聴き、これを学習します。ヒナはスピーカーなどから親の歌を聴いてもこれを学習しないため、親子が直接関わって歌を聴くことでヒナの学習意欲が高まることが必要だと言われてきました。

しかし、親子の社会的な関わりがどのように歌学習を制御するのか、その脳のしくみは分かっていませんでした。この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の臨界期の神経メカニズム研究ユニット・杉山(矢崎)陽子准教授の研究チームが、キンカチョウのヒナが歌を学習する時に親子の関わりの情報を伝える神経回路を明らかにし、科学誌Nature Communicationsに8月16日に発表しました。

「キンカチョウは群れで生活するため、様々なトリの歌や音を聴いて暮らしています。そのため社会的に深く関わっている親の歌を特定し、これを学習する必要があります。私たちが見つけた神経回路は、この社会的な関わりと音声学習を結びつけるために必要な神経回路です」と杉山(矢崎)陽子准教授は説明します。

ソングバードの研究者の間では、キンカチョウのヒナは親との社会的なコミュニケーションからしか歌を学習しないことが分かっていました。また、人間(ヒト)の赤ちゃんの言語における音素認識の発達にもヒトとの直接の会話が必要なことが明らかになってきており、相手と直接音声コミュニケーションすることで、ヒナや赤ちゃんの注意力が上がり、それにより学習が起きるのではないか、と言われていました。

「私たちも、より注意していれば、よく学習できます。歌を学習するキンカチョウヒナも同様なのではないか、と私たちは考えました。」と本研究を行ったイェレナ・カティック研究員は話します。

研究チームは、脳内の注意や覚醒レベルをコントロールしているといわれる青斑核という領域に注目しました。この青斑核は、高次聴覚野にも神経投射をしています。この高次聴覚野は数年前に杉山(矢崎)准教授の研究室が歌学習の際に親の歌の記憶が形成されることを見つけていました。

カティック研究員は「私たちはこの青斑核-高次聴覚野の神経回路が重要だと思いました。ただ、歌を学習している小さなヒナでこの神経回路を研究しているのは誰もいませんでした」と言います。

研究チームは、歌を学習しているヒナの青斑核と高次聴覚野の神経活動を3~4日に渡って記録しました。始めは親の歌を聴いて学習する前にスピーカーから親の歌を聴かせ、次に親と一緒にケージに入れて直接歌を聴いて学習させ、またその後にスピーカーから親の歌を聴かせ、ということを繰り返しました。

A juvenile zebra finch (right) learns songs from a tutor (left). Through this interaction, the tutor conveys not only the sounds of the song, but also that the song is important and needs to be memorized.
キンカチョウの幼鳥(右)は、コーチである親(左)から歌を習う。歌の音だけでなく、その歌が重要であること、覚える必要があることを、親鳥はこのやりとりによって伝えている。
キンカチョウの幼鳥(右)は、コーチである親(左)から歌を習う。歌の音だけでなく、その歌が重要であること、覚える必要があることを、親鳥はこのやりとりによって伝えている。

青斑核の神経細胞も高次聴覚野の神経細胞も、どちらもスピーカーから流れる親の歌より、親が直接ヒナに向けて歌を唄った時により強い聴覚反応を示しました。高次聴覚野の神経細胞は歌の音の特徴に反応していましたが、青斑核の神経細胞は親が歌を唄うこと自体に反応しているようでした。

さらに面白いことに、ヒナが親の歌を聴いている時に青斑核-高次聴覚野の神経回路の働きを抑制すると、ヒナはいくら親の歌を聴いても、これを上手に学習できないことも分かりました。

The researchers recorded from neurons in different regions of a juvenile’s brain while a tutor sang to it. Neurons in two brain areas – the NCM and the LC –  were more active in response to the tutor’s singing than to the playback of recorded song. Also, hearing the tutor’s singing enhances the neurons’ response to the recording, suggesting interacting with a live tutor triggers learning.
コーチである親鳥が唄っている間、幼鳥の脳の異なる領域の神経細胞を記録した。青斑核の神経細胞も高次聴覚野の神経細胞も、親が実際に唄う歌声に対して、スピーカーから流した場合よりも活発に反応した。親の歌を聞くと、録音したものに対する反応も高まることから、親との「対面」のやりとりが、親の歌から学習するきっかけになることが示唆された。
コーチである親鳥が唄っている間、幼鳥の脳の異なる領域の神経細胞を記録した。青斑核の神経細胞も高次聴覚野の神経細胞も、親が実際に唄う歌声に対して、スピーカーから流した場合よりも活発に反応した。親の歌を聞くと、録音したものに対する反応も高まることから、親との「対面」のやりとりが、親の歌から学習するきっかけになることが示唆された。

「高次聴覚野の神経細胞は、歌の音の音響構造やテンポといった様々な情報を色々な領域から受け取ります。その中で青斑核は別の情報-聴こえてくる様々な歌の中からどの歌を学習するべき、というような社会的背景の情報を伝えているのではないかと考えられます」とカティック研究員は話します。

「ヒナたちがどのようなキーを使って“社会的関わり“という背景を読み取り、学習を促進するのか、そのメカニズムはまだ分かりません。しかし、キンカチョウのヒナは発達期にのみ歌を学習するので、“社会的関わり“は脳発達にも重要であることが考えられます」とカティック研究員は続けます。

研究チームは、この社会音声学習にはどのような神経化学物資が必要なのか、というような歌学習に関わる神経回路メカニズムの研究を続けています。さらに学習をするヒナたちの行動が、歌を教える親の“注意”や“やる気”のレベルも変えているのではないか、と考えています。杉山(矢崎)准教授は、「社会的学習は相互的なものだからです」と話しています。

執筆:Alla Katsnelson

専門分野

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

シェア: