OIST卒業生が、OISTで学んだ経験を生かしてテック系スタートアップRyuDynを起業

ポール・シェーフ・サイ博士が立ち上げたRyuDynは、生きた細胞などの動的データをAIで画像化して分析する顕微鏡と付属ソフトウェアを発売します。

I2 accelerator program

イノベーションスクエア・スタートアップ・アクセラレータ―は、2022年度の採用チームを、2月20日まで募集中です。OISTを経て、世界を目指すスタートアップ企業を作りませんか。詳細はこちらをご覧ください: https://i2.oist.jp/ja/isquare-accelerator.

医用生体工学を学んだポール・シェーフ・サイさんは、2014年にOISTに入学し、7年間OISTで研究に専念しました。博士号だけでなく新たなキャリアへ進むために必要な訓練を受け、スキルやネットワークを得たサイ博士は、この度、テック系スタートアップ企業RyuDyn社の創設者としてOISTを後にしました。

OISTでテクノロジーパイオニア・フェローとして勤務する傍らでスタートアップ企業RyuDyn社を立ち上げたポール・シェーフ・サイ博士。

サイ博士は、出身地である台湾にRyuDyn社(Ryukyu Dynamicsの略)を設立しました。がん細胞が移動する様子や、幹細胞が特殊な細胞に分化する様子など、動的データを自動的に画像化して分析できる顕微鏡と付属ソフトウェアを発売する予定です。

博士は、次のように述べています。「弊社の目的は、産業界・学術界の研究者が費やす時間とお金を節約し、ワークフローを革新することです。これは、研究のペースを大きく加速させる大チャンスです。」

ポール・シェーフ・サイ博士がOISTで開発したAI 顕微鏡の試作品。人工知能を利用して細胞の画像化と分析を自動的に行う顕微鏡。

博士が起業家になりたいと思ったのは、社会に影響をもたらすことができる研究をしたいと望んでいたことが主な理由でした。そのため、OISTの技術開発イノベーションセンター(TDIC)が2020年に「テクノロジーパイオニア・フェローシップ・プログラム」を開始したとき、博士課程の修了に差し掛かっていた博士は、この機会に飛びつきました。

博士は、「学術論文を発表するだけではなく、特定の問題を解決して、実際に目に見える形で社会に還元できるような、意味のある研究をしたいと思っていました。起業家へ転身する意志は、日に日に強くなっていきました」と言います。

画像化や分析の自動化システムの研究は、エイミー・シェン教授が率いるマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットの学生であった博士課程時代に始めました。当時は、脳のがん細胞の移動を自動的に調査できる顕微鏡とソフトウェアを開発していました。

博士は次のように述べています。「当時、脳のがん細胞の移動を分析する信頼性の高いシステムはありませんでした。これには、細胞がどれぐらいの速さで、どの方向に移動しているかを示す定量データが必要ですが、これらの情報を研究者が画像から手作業で抽出するとなると、週におよそ20時間もかかります。このプロセスは、研究全体を遅らせる要因となり、人的ミスやバイアスが加わる可能性もあります。」

自動化技術にビジネスチャンスを見出したサイ博士は、博士号取得後もOISTに残り、初代テクノロジーパイオニア・フェローの一員となりました。同プログラムでは、OISTの大学院生や研究者が、OISTで開発された技術を1~2年かけて商業化に向けてさらに開発を進めることができます。

サイ博士は、その後1年間TDICを拠点として、起業家として独立して成功するための綿密な研修やアドバイスを受けました。また、TDICのネットワークを通じて、自身のアイデアをベンチャーキャピタルに売り込んだり、特許申請や事業計画作成の方法を学んだりして、スキルを磨きました。

博士は、「起業家育成プログラムは、非常に刺激的でした。商品の開発には、広範囲にわたる知識を習得する必要があります。市場への参入余地や顧客のニーズを考え、実行可能なビジネスモデルを構築する必要があります。特定のテーマを深く掘り下げる博士課程とは大きく異なります」と説明しています。

同プログラムに参加することで、博士は給与だけでなく、商業化可能な製品の開発に向けて研究を加速させるための追加研究費も得ることができました。

現時点において、博士のソフトウェアでは、細胞が移動する速さや方向、見た目の変化を追跡し、それらの特徴に基づいて細胞分化を予測することができます。

「我々の知る限り、これができる商品は今のところ市場にありません。さらに、弊社製品の分析結果は、競合他社の製品に比べて6~60倍速く、正確性も最大5倍上回っています。」

AI顕微鏡の試作品の使い方を実演して見せるRyuDyn社共同創業者のシェーフ・サイ博士。

RyuDyn社では、脳のがん細胞の移動を分析する研究を続ける傍ら、再生医療の分野でも新たなビジネスチャンスを模索しています。

患者から幹細胞を採取して培養し、特定の細胞に分化させた後、再び患者に移植するという新しい治療法がありますが、現在のところ、培養細胞を分析する検査では、細胞を取り出して死亡させる必要があり、その供給数は限られています。

「弊社製品のコンセプトは、細胞が増殖や成長をしている間に、同時分析することができるというものです。つまり、細胞培養のニーズに素早く対応でき、細胞も生かしておくことができます。これは本当に重要な進歩となるでしょう。」

RyuDynはOISTで開発した技術をライセンスしており、商業開発を進めるため、日本や台湾でパートナーを探しています。同社のcontact@ryudyn.comまたはOISTイノベーション・スクエアのinnovation@oist.jpでご照会・ご応募を受け付けています。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

シェア: