空に浮かぶダイヤモンド

砂や砂糖の粒の動きを説明する概念で、何百万kmも遠方で回転している2つの小惑星がなぜダイヤモンド形なのかを説明することができます。

本研究のポイント:

  • ベンヌとリュウグウは、無人探査機によって近年撮影された2つのラブルパイル(破砕集積体)小惑星である。
  • 両小惑星とも特徴的なダイヤモンド形をしているが、その形状に至った理由については科学的に明らかになっていなかった。
  • 今回、研究チームは、砂や砂糖などの粒状体の流れを説明するために設計された単純な粒状体の物理モデルを用いて、これらの小惑星の全体的な形状を説明した。
  • 同モデルを用いて小惑星のシミュレーションを行ったところ、研究チームの仮説が裏付けられた。
  • 本研究では、既存のモデルとは異なり、特徴的なダイヤモンド形が小惑星形成のごく初期から見られたことが示された。

プレスリリース:

沖縄科学技術大学院大学(OIST)およびラトガース大学の研究チームは、粒状体物理の単純な概念を用いて、2つの地球近傍小惑星がなぜダイヤモンド形をしているのか、その理由を解明しました。

小惑星とは、太陽の周りを公転している岩塊です。約46億年前に太陽系が形成されたときに、大きな惑星に取り込まれずに残った物質が集まって小惑星を形成しているという点が、研究者が魅力に感じるところです。これによって、太陽系の初期や惑星の形成過程を解明することができるのです。小惑星の多くは、木星と火星の間に位置する小惑星帯に閉じ込められています。地球から遠く離れているため、研究が難しいのですが、まれに小惑星が軌道から外れて地球に接近することがあり、無人探査機を使って間近で撮影することが可能となります。

その例が、2つのダイヤモンド形小惑星、ベンヌとリュウグウです。ベンヌとリュウグウはどちらも「ラブルパイル」と呼ばれる小惑星で、小さな岩塊が重力によってゆるく合わさったものです。つまり、本質的には、砂浜の砂のように互いに作用し合う粒状体の集合体のようなものです。

2018年と2019年にダイヤモンド形の2つのラブルパイル小惑星が地球の近くで観測され、無人探査機によって撮影された。OISTとラトガース大学の研究チームは、通常は粒状体の流れを説明するためにのみ使用さている単純なモデルを用いて、その珍しい形状を説明した。本画像の左側が小惑星の1つであるベンヌの写真で、右側が本モデルによるシミュレーション画像である。見てわかるように、シミュレーション画像の形状がベンヌの形状と一致している。

Granular Matter誌で発表された今回の研究論文の筆頭著者であり、OISTの流体力学ユニットの研究者であるタパン・サブワラ博士は次のように説明します。「これまでのモデルでは、このようなダイヤモンド形になった理由は、自転による力の作用で物質が両極から赤道に向かって移動したためだと考えられていました。しかし、これらのモデルを使ったシミュレーションでは、小惑星はダイヤモンド形にはならず、平らだったり、非対称になったりしたため、何かがおかしいと思っていました。その後、これまでのモデルには、物質の堆積という重要な要素が欠けていることがわかりました。そして、砂や砂糖のような粒状体の堆積に通常使われる単純な力学モデルで、観測された形状を予測することができたのです。」

漏斗に砂や砂糖を入れる様子を思い浮かべてみてください。さまざまな力が働いて、パーティーで被る帽子のような円錐形の山ができあがります。粒状体物理学者は、粒状体に作用するさまざまな力に基づいて、山の形を予測することができます。サブワラ博士は、同ユニットを率いるピナキ・チャクラボルティ教授、ラトガース大学のトロイ・シンブロット教授とともに、この概念を小惑星に応用しました。

サブワラ博士は、これらの小惑星では、重力が働く方向が砂浜の砂山とは異なっていることを説明しました。「この点と、小惑星の自転も重要な役割を果たしていることをモデルに反映させる必要がありました。」

つまり小惑星は、そこに働く力の作用を受けて、地球上の粒状体の蓄積に見られるような円錐形ではなく、ダイヤモンド形になったのです。小惑星の両極付近では、自転によって起こる遠心力が小さいため、そこに物質が蓄積されて独特の隆起した形状になっているのです。このモデルがこれまでのモデルとは異なるもう一つの重要な点は、これらのラブルパイル小惑星が球体からダイヤモンド形に変形したのではないということです。むしろ、小惑星の形成初期に破片が蓄積することによってダイヤモンド形が形成され、その後の再形成は最小限のものであったと考えられます。ダイヤモンド形が小惑星形成の初期段階で形成されたという考え方は、既存のモデルとは異なりますが、最近の観測結果とは一致しています。

さらに、研究チームが本モデルの正確さを証明するためにシミュレーションを行ったところ、小惑星は特徴的なダイヤモンド形になり、研究チームの理論をさらに裏付ける結果となりました。

チャクラボルティ教授は、次のように述べています。「粒状体の流れという単純な概念を用いて、これらの小惑星がどのようにして不思議な形になったのかを説明しました。単純な概念で複雑な問題を解明することができたことが、私たちにとってこの研究の最も優れた点と言えます。」

発表論文詳細:

論文タイトル: Bennu & Ryugu: Diamonds in the sky
著者: Tapan Sabuwala, Pinaki Chakraborty & Troy Shinbrot
発表先: Granular Matter
DOI: 10.1007/s10035-021-01152-z
発表日: 2021年9月4日

研究ユニット

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

シェア: