専門家による検討会がOISTの10年の業績を評価、将来の成長を提言

地元への貢献、規模拡充、ガバナンス及び財源の多様化が重要テーマ

今年は沖縄科学技術大学院大学学園法が施行され、世界レベルの学術機関となることを使命とする沖縄科学技術大学院大学(OIST)が沖縄に誕生して10年目の節目に当たります。この節目に当たり、有識者からなる検討会が評価を行い、OISTの将来の発展に関し日本政府に提言を行いました。

OIST理事会議長 チェリー・マレイ博士(アメリカ物理学会2009年会長、前全米研究評議会工学・物理科学部門長)は、「OISTの成長の方向性を決めることになる諸々の課題について取り組んでいただいた座長の相澤益男先生をはじめとする委員の方のリーダーシップ及びご尽力、そして、有識者会議の検討期間を通じてサポートされた内閣府の関係官の皆様に感謝申し上げます」と謝意を表しています。

OISTは、日本の科学技術における競争性が衰退している状況を背景に、先導的な大学として設立されました。OISTの目的は、継続的に世界の科学技術の発展に貢献し、国の内外から一級の研究者を招き、世界トップクラスの研究拠点を発展させ、そして沖縄における技術移転とイノベーションの触媒となることです。

有識者会議が、OISTは総じてそのミッションを遂行できていると結論づけたことについて、OISTの理事長兼学長ピーター・グルース博士は次のように述べています。「とりわけ研究成果の業績を認めていただいたこと、そして、これらの業績は国際的に卓越しているとコメントしていただいたことを有難く受けとめています。」

有識者会議の分析結果によると、OISTは既に日本のどの大学よりも卓越した国際的な競争性を獲得するレベルに達しており、日本で最大の総合研究機関であり多様な研究分野で高い研究の質を誇る理化学研究所に相当する研究を行っているとされています。

有識者会議の報告書はOISTの特徴を次のように指摘しています。個別の研究室を超えて柔軟に研究テーマを設定・遂行する体制、学際性を涵養するための博士課程学生のラボ・ローテーション制度、国の内外から優れた学生、教員、職員を採用することによって培われる国際的な環境などです。OISTは、沖縄の課題を解決するために沖縄の特性や資源を最大限活用して研究を遂行していることを称揚していただいたことに感謝します。同時に、さらに進化することのできる分野があるとの指摘も受けとめています。

沖縄及び日本への貢献

OISTが沖縄に立地していることはその存在意義の重要な要素になっています。OISTは、地元の沖縄県、日本そして世界のためになるという責任を果たしていく決意です。有識者会議がこれまでに行われてきた科学教育、沖縄において学生が展開する交流活動、沖縄の特性と資源を最大限踏まえた研究活動を称賛していただいたことに感謝申し上げます。

同時に、OISTが沖縄の地元社会にさらに深く根付くべきとの助言を真摯に受けとめます。沖縄の経済及び社会に革新的な利益をもたらすイノベーション・エコシステムの中心に位置することは、OISTの戦略の核心です。さらに、有識者会議がイノベーション・エコシステムはOIST単独では築くことはできないとの理解を示していただいたことを有難く思っています。

成長と拡充

有識者会議はOISTの規模拡充が必要であると結論付けています。OISTは当初から、300人の教員規模が適切な目標であるとの見解でした。これまでの勢いを維持するためには、大学として2030年代早期に200人達成を目指すべきです。OISTは、有識者会議が国際レベルの研究教育を遂行するために必要な規模を見出すための分析を行われたことに感謝申し上げます。有識者会議の分析の結果は、OISTの創設者らが見込んだ成長目標がいまだに妥当なものであることを確認しています。

また、論文の量を増やすために質を犠牲にすべきではないとの有識者会議の見解に賛同し、引き続き質量の向上に努める決意です。それを可能にするためには成長が不可欠です。

有識者会議は世界レベルの研究教育を遂行するためには教員数の増加とともに研究分野の拡充を伴わなければならないとの見解を示されています。OISTの拡充を支持してくださった有識者会議に感謝申し上げます。

ガバナンスの進化

有識者会議は「世界レベルの研究教育を遂行する大学の運営にふさわしい組織構造が構築され適切に機能している」と結論付けています。さらにOISTの組織マネジメントのうち日本の他の研究大学に応用できる特徴を把握することが大切であると指摘しています。2009年の内閣府局長の国会答弁でも述べられているように、OISTにおいては特別な法律によって決定・監督機関である理事会と業務執行機関である理事長との分離が徹底されています。また学外理事が過半数を占めることで理事会の独立性・監督機能が強化されています。これらは欧米型の大学運営を可能にするものです。

今後、OISTは有識者会議のコメントを踏まえて、ガバナンス体制を検討して、大学の成長の過程で引き続き効果的であるようにしてまいります。OISTのガバナンス改革については、どのようなものであれ、以前に内閣府からご指摘があったように国際基準に沿ってなされることが重要です。

財源の多様化

OISTは、ハイトラスト・ファンディング、すなわち公的な安定的資金による支援を受けていることに感謝しており、それこそが10年間でこれほどの業績達成を可能にした要因だと考えています。ハイトラストファンディングのモデルは5年毎の厳格な外部評価と相まって、教員に革新的な研究の遂行を行う自由をもたらします。OISTは将来的にも研究施設、設備その他の研究資源への大規模な財政投資を必要としています。こうした投資が、さらなるイノベーション、人材輩出及びインパクトをもたらすための国際的競争性を維持できるよう急速に成長することを確実にします。

政府がOISTに対する適切な支援を引き続き維持するように有識者会議として提言されたことに感謝します。加えて、自立的な資金を拡大して財務基盤を構築する必要があることを受けとめています。しかしながら、報告書が成熟した経済、財政、科学活動を擁する都市部に立地する大学と同様の成果をOISTに求めていると受けとめられるのではないかと懸念しています。さらに言えば、米国やヨーロッパにおいて大学の主要な自立的資金源となっているものは、日本には存在しないか、または発展途上にあります。

OISTは、この10年間、財政支援において日本政府及び国民の皆様から特例的な扱いを受けてきたことを深く心に刻み、有識者会議としてOISTがこれまでミッションを遂行してきたと確認していただいたことを誇りに思います。それを当たり前のこととは受けとめていません。

しかしながら、コロナ禍によってもたらされる財政面の負荷によりOISTへの財政支援について将来をリスクにさらすような水準にするとの意思決定に導かれるのではないかという懸念を抱いています。OISTは、報告書及び「新たな沖縄振興策の検討の基本方向について」を踏まえて、政府とともに、世界トップクラスの成果を産み出す能力を危険にさらすことなくどのようなスケジュールで何を達成できるのかについて、共通理解を形成できるように努めてまいります。

OISTが日本の科学技術の一部にさらに溶け込んでくるにつれて、OISTモデルはすでに沖縄、日本、世界に対して重要な貢献をするようになっています。日本政府、国民、そして沖縄の皆様には、引き続きOISTの遠大なミッション達成を支援し、人類の利益向上のための知の前進に貢献していただくよう心よりお願い申し上げます。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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