共生関係は、終わりなき権力争い

フィリップ・フスニック准教授が、共生や、そこから学べる進化や細胞生物学について語りました。OISTポッドキャストの最新エピソードです。

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私たち人間が持っているもので、サンゴ礁や昆虫、沖縄の星砂にも共通しているものとは何でしょう?進化系統樹が広く枝分かれしていることに見て取れるように、人間も他の生物もそれぞれ異なっていますが、ある特別な関係に依存しているという共通点も持ち合わせています。私たちは皆、当たり前のように共生生物を養っており、これらの生物は、良くも悪くも私たちの生活史に強く結びついています。

共生生物は、宿主に太陽や化学物質から得たエネルギーを提供したり、食物をより効率的に分解する手助けをしたり、捕食者から宿主を守ったりもします。このような共生は、相互に利益をもたらす関係であるとこれまで考えられてきました。しかし、2020年3月に沖縄科学技術大学院大学(OIST)に着任し、進化・細胞・共生の生物学ユニットを率いるフィリップ・フスニック准教授は、実際は、終わりのない権力争いのようなものであると強調しています。

「確かに、相互に利益をもたらす共生もありますが、一方に利益をもたらしながらも他方に悪影響を及ぼす寄生的なものもあります」と説明しています。

 
OISTのポッドキャストにゲスト出演したフィリップ・フスニック准教授は、OISTサイエンスコミュニケーターのルシー・ディッキーに共生について、そして共生から進化や細胞生物学の何が分かるのかについて語った。

古来の共生の例として挙げられるのが、人間のすべての細胞(さらには他のすべての動物、植物、菌類、単細胞の原生生物、藻類の細胞)に存在する非常に小さな細胞小器官のミトコンドリアです。ミトコンドリアは、細胞を動かすのに必要な化学エネルギーのほとんどを生成していますが、興味深いことに、かつては自由生活性の独立した生物でした。

細胞に「吸収」されたミトコンドリアは、顕著な変化を遂げました。遺伝物質のほとんどを失い、独立して生きられなくなったのです。そして真核細胞も同様に変化し、エネルギーをミトコンドリアに頼るようになりました。これは、今から20億年前のことです。今では、私たちの生命は、この共生関係なくしては成り立ちません。

このような進化における重大な謎に関心を持つフスニック准教授は、次のように説明しています。「生物は、選択や突然変異といった標準的な進化のメカニズムではなく、共生と遺伝子の水平伝播の2つの方法をとることによって非常に素早く変化を遂げ、新しい環境に適応することができます。共生生物の獲得は非常に手早く行うことができ、宿主は例えば新しい環境に移動したり、新しい食料源を食したりできるようになります。」

フスニック准教授は、ミトコンドリアの起源について調査していますが、研究の多くは進化において比較的最近の共生に焦点を当てています。その例として、日本の家庭でよく見られる昆虫で、植物に発生する害虫であるコナカイガラムシなどの共生や、サンゴの構造体の中に棲むさまざまな細菌や古細菌などがあります。さらに、沖縄で有名な星砂の中に存在する共生生物も調査する予定です。

共生細菌をもつカイガラムシのハマカイガラムシ
沖縄でよく見られる星砂(有孔虫)。フィリップ・フスニック准教授は、有孔虫と共生する微細藻類との関係を調べている

フスニック准教授は、研究の中で、世の中には驚くような共生の例がたくさんあること、そして、共生を調べることで進化生物学の研究が素早くできると話しています。

広報・取材に関するお問い合わせ:media@oist.jp

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