不思議な粒子

量子情報処理に関与する超高感度原子を研究しました

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の量子技術のための光・物質相互作用ユニットの研究者らがこの度、  リュードベリ原子と呼ばれる、通常は見られない大型の励起原子をナノスケールの光ファイバー付近に生成しました。Physical Review Research誌で発表されたこの発見は、量子情報処理の新たなプラットフォームへの進歩を示すものであり、材料や創薬の分野で革命をもたらしたり、より安全な量子通信を提供してくれる可能性があります

リュードベリ原子は電場と磁場に対して非常に影響を受けやすいことから、長年にわたり物理学者が関心を向けてきました。この超高感度原子は、光ナノファイバーと組み合わせて使用すれば、新タイプの拡張可能な量子デバイスに役立つかもしれません。 しかし一方で、リュードベリ原子を制御するのは至難の技です。

「研究の主な目的は、リュードベリ原子をナノファイバーに近づけることでした。この実験装置は、リュードベリ原子とナノファイバー表面間の相互作用を研究するための新システムを生み出してくれたのです。」と、OISTの博士課程の学生で、本研究筆頭著者のクリシュナピリヤ・スブラモニアン・ラジャスリーさんは説明します。

不思議な原子

実験の実施に当たっては、磁気光学トラップと呼ばれるデバイスを使用し、ルビジウム(Rb)原子のクラスターを捕獲しました。 原子の温度を約120マイクロケルビン、すなわち絶対零度を少し超える程度にまで温度を下げたのち、ナノファイバーを原子のクラウドの中に通しました。

次に、ナノファイバーを通過する波長482 ナノメータの光ビームを使用し、ルビジウム原子をよりエネルギーの高いリュードベリ状態に励起しました。 ナノファイバー表面の周りに形成されたリュードベリ原子は、通常よりもサイズが大きい原子です。 原子内の電子がエネルギーを得ると、原子核から遠くに移動してより大きな原子を生成します。 この通常にはない大型の原子サイズにより、周囲の環境および他のリュードベリ原子の存在に対しての感度が高まるのです。

研究者らは、磁気光学トラップ(MOT)と呼ばれるデバイスを使用し、ルビジウム原子を捕獲して冷却、リュードベリ状態にまで励起させた。

実験を通して研究者らは、光ナノファイバーのほんのナノメートルという範囲内にリュードベリ原子を置き、原子とナノファイバー内を移動する光との相互作用を増幅させました。 リュードベリ原子は、通常にはない性質を持っているため、磁気光学トラップを脱出しますが、この原子の損失が、光のパワーと波長にどのように依存するかを調べることにより、研究者らはリュードベリ原子の挙動の一部を理解することができました。

研究者らによれば、光ナノファイバーを伝わる光でリュードベリ原子を励起させて制御することにより、量子通信の方法への道が開かれるとともに、量子計算への漸進的な進歩の可能性が出てきたと言います。

OISTの研究員で本論文の共著者でもあるジェシー・エヴァレット博士は「光とリュードベリ原子間の相互作用を理解することは非常に重要です。というのも、この原子を利用すれば、非常に少量の光でも、通信信号の安全な経路制御が可能になるからです。」と説明します。

今後は、リュードベリ原子の特性を光ナノファイバーと組み合わせてさらに研究したいと、研究者らは考えています。 そしてさらに将来的には、このシステムの可能性と限界を探求するため、よりサイズの大きいリュードベリ原子を探求していく予定です。

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